書評<全体主義>
現在、”全体主義”という言葉は、ファシズム、ナチズム、スターリニズムを含んでいる。それぞれに民族・国家・イデオロギーなど、根幹とする思想が違うのにも関わらず、ひとまとめにして象徴的に”民主主義の敵”とされている。本書はファシズム、ナチズム、スターリニズムそれぞれがどのような歴史を辿り、アーレントをはじめとした批評家たちがそれをどのように批判してきたかを探る。
”強制収容所”をはじめとして、いわゆる全体主義体制には多くの共通点があるものの、それぞれに特徴を抱える。例えばナチズムはその暴力を国家の外側に設定したのに対し、スターリニズムは国家の内側、つまり自国民に向けたことなどだ。著者が全体主義体制がもたらした”結果”を問うのではなく、その起源を辿り、それぞれの思想を問うているのは、現在の民主主義・資本主義体制を擁護するための一種の方便として全体主義が使われる危機感を持っているからだ。民主主義にも欠点があるのにも関わらず、「全体主義に比べれば」と思考停止してしまうと、欠点を隠蔽することになる。そのためにも、著者はあらためて全体主義体制の内容を問うているのである。
初版2010/05 平凡社/平凡社新書
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