書評<傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学>
擦り傷・切り傷は止血した後、消毒薬をふりかけた後にガーゼや絆創膏を貼って乾燥させて治癒を待つ、というのが常識だった。しかしながら、最近は「湿潤療法」と呼ばれる、消毒薬を使うことなく、傷口を乾燥させることなく治療する方法が徐々に広まっているようである。
ジュクジュクとした浸出液に覆われた傷はいかにも不潔そうで、消毒をして浸出液をふき取りたくなる。しかし、消毒液は皮膚の常在菌をも殺して皮膚の再生を妨げ、傷の乾燥を保つのも治癒に逆効果となる。ゆえに、サランラップなどで傷を覆って傷の湿度を保ったほうが、治癒が早く後も残らない。かさぶたを作らないという”革命”なのだ。著者は、こういったこれまでの常識を覆す「湿潤療法」を確立した医師であり、科学的な見地に基づいてこの療法の効果を紹介し、医師と我々にパラダイムシフトをせまる。
個人的なコトながら、本書を読み進んでいる途中で後頭部にできた「粉瘤」なるデキモノが破裂、大量の膿が噴出し、皮膚に大穴が開いた。この「粉瘤」、クセになっているのか、2年前にも外科で切開して膿を出して縫合している。今回も本来は皮膚科なりに行くべきところだが、本書がいうところを試してみたくなり、著者推薦の「キズパワーパッド」で湿潤療法を実践してみた。確かに化膿することなく1週間ほどでほぼ治癒した。前回は縫合して1週間で抜糸している。厳密にいうと2つの「粉瘤」を比べることはできないが、それでも従来の治療に対抗するくらいの治療法であることは確かなことのようだ。少なくとも怪しい民間療法のたぐいではない。
しかしながら、もはや地球で一番清潔といって過言ではない日本だけで通じる治療だけのような気もするし、著者の皮膚常在菌へのこだわりは過信のような気もする。シロウトでも医療に対するパラダイムシフトは難しいと感じるのに、医師ならなおさらだろう。この湿潤療法については、もう少し経過を見守りたい。
初版2009/06 光文社/光文社新書
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初めまして、気になる事が書かれていたのでコメントさせていただきます。
この、湿潤療法すでにかなりの医療機関で同等の治療に切り替わりつつあります。
医療業界は、ある種学問の世界でもあるので、コンセンサスが得られると非常に早く変化していきます。
近隣の病院でもそのうち変わっていくと思います。
こういうパラダイムシフトはダイナミックで面白いですよね。
では、お身体にお気をつけ下さい。
失礼します。
Posted by: zin | 2010.05.24 00:53
>zinさん
はじめまして。丁寧なコメント、ありがとうございます。
本書を読むと、大きな病院ほど、まだまだ湿潤療法が用いられていない印象を受けますが、そうでもないのですね。もうすでにコンセンサスが得られているのなら広まるのも早そう。
そうすれば、キズパワーパッドなど高めの保湿パッドの値段も下がりそうですね。
Posted by: ウイングバック | 2010.05.24 22:47