書評<国際貢献のウソ>
若くして国際的なNGOに所属し、アフリカでの秩序回復に関わり、また国連においては東チモールやアフガニスタンで武装解除などの治安回復の指揮をとってきた著者が、NGO/NPOあるいは国連による援助の実態を解説したものである。貧者をタネにして”ビジネス”を展開しているNGOと、”清く正しい善意のボランティア”などと報道される日本のメディアとのかけ離れた実態。あるいは紛争地に派遣される国連部隊の限界などを明かし、その解決策を探る。
著者は”武装解除屋”として、一部では知られた人である。ここ最近は「憲法第9条を守る会」などに関わっているため、自分などはどうしてもレッテル貼りしてしまいそうだが、さすがにいわゆる”頭の中がお花畑”の方々とは異なり、大部分はしごくまっとうな主張だ。国際援助に関わるNGO/NPO、特に日本のウソくさい機関の実態については、通常のメディアでは知ることができず、貴重な情報と批判である。また、ODA(政府開発援助)についても、やり方は改善する余地があるにせよ、その必要性を著者が訴えるのは理解できる。
ただねえ、やはり”軍隊と銃”を全否定できないのもまた、昨今の国際情勢だと思う。例えば最近「タリバンとアルカイダは別物、タリバンはわりと正義の味方」みたいな見識が一部に出回ってるが、タリバンの治世の一部でも知っていたら、そんなことはとても言えないと思う。少なくとも、そうした見識を流しがちなサヨクのみなさんの人権感覚に沿うものではない。そのタリバンとその他武装勢力との紛争に介入するには、すくなくとも初期は軍が必要であろう。アフガン戦争以前は「アフガンがタリバンに支配され、アルカイダの巣になってしまったのは、国際社会の無関心のせい」と言ってたメディアが、昨今の泥沼を見て「とにかく現地の人々の判断にまかせ、国際部隊は撤退すべき」と日和見してしまう様は、もはや不愉快を通り越して目に余る矛盾である。それに振り回されるのは軍であり、彼らにしてみればたまったものではない。
なんだか話がずれたが、国際貢献とは何か、考えるきっかけになる新書ではある。
初版2010/08 筑摩書房/ちくまプリマー新書
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