書評<毒ガス開発の父ハーバー>
空中窒素固定法により、産業革命により急増する人口を支えるための食糧増産に大きな貢献をした化学者、ハーパー。彼は同時に、第1次世界大戦で使用された毒ガスの開発者であった。ユダヤ系でありながら強固な愛国心を持ち「戦争を早期に終結させるために」毒ガス開発の中心となったハーバーは、やがてその愛する祖国をさらなければならなかった。天才化学者の数奇な運命を、日本との関わりにも触れながら解き明かしていく伝記。
科学者が時の為政者、あるいは戦争に対して、どのような態度でのぞむべきであるのか?テクノロジーが兵器の根幹を決定する現在においても通じる命題である。ハーバーの辿る道のりは、「国家」というものに対して信頼をおく自分のような人間でも、それに対して疑問を持たざるをえないほどに皮肉である。それはコスモポリタンでもあったアインシュタインとの比較により、より顕著になるであろう。テクノロジーと国家と戦争に対していかなる態度でのぞむべきか、一考するにはよい課題図書となる1冊である。
初版2007/10 朝日新聞社/朝日新書
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