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書評<捕食者なき世界>

食物連鎖は、さほど生物学に興味がなくてもよく知られている。植物が草食動物に食べられて、草食動物が肉食動物に食べられて、肉食動物が土に還って・・・というやつだ。今では教科書に出てくるようなピラミッドよりも複雑なつながりを生物同士が持つとして食物網とも呼ばれる。
本書はその食物連鎖のピラミッドのバランスが、ボトムアップではなく、トップ・プレデター(頂点捕食者)に左右されるトップダウンであることを解説する。ヒトデや貝類が生息する小さな磯辺や、アリューシャン列島のラッコなどの事例を紹介する。またアメリカのイエローストーン動物公園でオオカミを復活させた事例を紹介し、捕食者が復活することにより、自然のバランスがどのように回復していったかを見ていく。そして現代のトップ・プレデターであるホモ・サピエンスが地球の生物にどのような影響を与えているかを推察していく。

前段で紹介した各個の事例は概ね現象として詳しく調査されており、自然のバランスが捕食者によって保たれていることはほぼ同意できる。トップ・プレデターが、中間である草食動物を”間引き”するだけでなく、草食動物の行動まで変えてしまうことは興味深い。
しかしながら、北米の大型哺乳類が絶滅したいわゆる”更新世の大絶滅”をはじめとして、人間の影響力を過剰に見積もっている点は少し疑問符が残る。更新世の大絶滅が人間の過剰殺戮が原因だとすると、もっと早くから地球の生物多様性は殺伐としているはずだし、巻末の日本の事例のエゾジカの増加は、オオカミの絶滅とは関係ないように見える。地域単位のミクロと、大陸単位のマクロでは、同じ視点では捉えられないのではないかと個人的には思う。
本書を読んで感じるのは、人間の過剰殺戮や狩猟よりも、むしろ現代の社会においては特定の動物に肩入れする人間のエゴの方が食物網のバランスを崩している事実である。愛らしいシャチは海のギャングであり、おとなしそうなシカは草を食い尽くす大食漢であることを忘れてはならない。

初版2010/09 文藝春秋/ハードカバー

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