書評<戦うコンピュータ2011>
第2次大戦以来、軍事の分野では長らく「ソフトよりハード」の時代が続いていた。いわく「世界最強の戦闘機はどれか」というわけである。コンピュータも、いわば個々の兵器の能力を向上させるためのものであった。
もちろん、いわゆるCommand(指揮)、Control(統制)、Communication(通信)、Information(情報)は戦場で主導権を握るキーであり、いわゆるデジタル・ネットワークの萌芽はすでに1960年代に見られる。しかし、近年の情報処理技術の発達はネットワークが戦術・戦略の中心となる「NCW(NetworkCentricWarfare)、ネットワークを中心とした戦争」という概念を生み出すことになった。「ハードよりもソフト」の時代に移行したのである。本書はそうした現代戦の情報通信技術を短いトピックで取り上げ、解説していく。
著者は「C4ISRの教科書」というコンセプトで本書をまとめたそうだが、バランスよく軍事における情報処理、通信技術が解説されている。例えば米海軍のリンク16が何を目指し、何ができるのか?そして次世代のリンクでは何を目指しているのかが具体的に解説されている。本書を通して感じられるのは、先に述べた「ソフトよりハード」のソフト開発の重要さと大変さである。求められるネットワークといわゆるセンサーの融合はますます高度になり、ソフト開発は困難になっていく。ここにいかに資源を投資できるかが、軍の根幹に関わる時代になったのだ。
著者には、次作はECM、ECCMについての”教科書”を希望。有事にECMでネットワークが断ち切られては戦争にならない。ネットワークの暗号化、対妨害手段は確立されているのか?そこのところが知りたい。
初版2010/10 光人社/ソフトカバー
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