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初版<完全な人間を目指さなくてもよい理由-遺伝子操作とエンハンスメントの倫理->

2010年のベストセラー著者の一人、マイケル・J・サンデル氏が、遺伝子操作など人道上問題がありそうなエンハンスメント、つまり人体の強化に対して疑義を呈しているのが本書である。不用意な遺伝子操作には生物学上からも反論が可能だが、本書は氏の専門である哲学の方面からエンハンスメントが内包する諸問題を指摘する。

遺伝子操作に哲学で疑義を呈する、ということで少々難しい本だったが、自分なりに解釈すると、人が生を受けたときに贈られる才能や性格などのいわゆる”ギフト”に対して、その責任を人が全面的に引き受けられるのか、ということに重点があると思う。例えばデザイナー・チャイルドとはその名のとおり、遺伝子操作により特定の”ギフト”を選んで子供をもうけるわけだが、そうして子供が生まれる前からその人生の選択肢を奪っていいのか?その”デザイン”に対して全面的に責任を負うことに、人間の心が耐えられるのか?サンデルはそこを問うているのだと思う。人が人に対して責任を負うのは、我が子だからこそ重い。

初版2010/10 ナカニシヤ出版/ハードカバー

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書評<これからの「日本サッカー」の話をしよう>

日本サッカー協会はワールドカップへ出場、そして勝利を重ねるために、様々な強化策を実施してきた。その多くは実際に身を結びつつあるが、ヨーロッパ標準と比較するとまだまだ不十分なところも多い。Jリーグの清水エスパルスの監督として来日し、すでに10年以上在住して主にユース年代の強化にたずさわってきたズドラヴゴ・ゼブノビッチ氏に、日本の育成システムには何が足りないかを問う。

ヨーロッパから見て日本サッカー界のよく分からないところの1つが、学校の部活とJリーグユースなどクラブチームの並列のようである。ゼムノビッチ氏の指摘の中心もそこにあり、短期間でチームの結成・解体させ、トーナメント中心となってしまう部活というシステムの改革を求めている。だが、明治時代に教育の一環としてスポーツが輸入された経緯から辿らなければならないこのシステムを、修正していくのは並大抵のことではないし、選択肢が多いという面では、一定の貢献もしている。自分がサポートするサンフレッチェ広島などは、高校サッカー選手権の常連高のメンバーの半分は同チームユース出身者であり、地域の連携がうまくいっているところもある。だが、ゲーム経験の少なさなどは氏の指摘するとおりであり、サッカー関係者には育成体制の変革の参考書の1つにしてもらいたい。


初版2010/11 カンゼン/ソフトカバー

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書評<オバマの誤算 「チェンジ」は成功したか>

2年前、バラク・フセイン・オバマ大はアメリカ国民のみならず、世界中に歓迎されアメリカ大統領に就任した。しかしながら、時を経るに従い支持率は低下し、2010年の中間選挙では所属政党の民主党は上院・下院で大敗した。景気が思ったように回復しないという現実があるにしろ、アメリカ国民の心変わりは早すぎるようにも感じる。本書は、オバマ政権の支持率原因を探っていく。

大衆に支持されて当選したリベラル派大統領にも関わらず、倒産した大企業を政府が支援することを指示。一方で”グリーン・ニューディール”という聴き心地のいい政策は予算不足で破綻しつつあり、失業率は一向に回復しない。「核なき世界」を唱えながら、臨界前核実験を相変わらず繰り返す。まあ、支持率が下がっても当然ちゃ当然なのだが、本書の著者は支持率低下の遠因に根強い人種差別を導き出す。オバマのその複雑な出自が多民族国家アメリカの象徴であると同時に、陰謀論を生み出し、ときおり議員からもポリティカル・コレクトネスを飛び越えて、不穏当な発言が飛び出す現実を著者は指摘する。確かに、まだアメリカは保守的な白人の国のようである。


初版2010/12 角川書店/角川oneテーマ21

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書評<予防接種は「効く」のか?>

ワクチンによる予防接種は、人類を疫病から守るもっとも有効な手段の1つである。しかし近年、その副作用などが不必要に喧伝されることにより、予防接種の多くが接種義務から外されている。その結果が昨今、成人近くなっての麻疹の集団発生など、予防接種の義務化から外れた感染症の復活である。本書はワクチンの歴史とワクチンの為しえたことを振り返り、また副作用とワクチン禍を正面から見つめることにより、予防接種の必要性を改めて問う。

予防接種は多くの死に至る疾病を絶滅寸前まで追い込んだ。しかし、そのことが逆に、その疾病に罹患することの現実感を喪失させていると思う。なので天然痘とちまたで噂される副作用を天秤にかけた場合、副作用を重要視してしまう。きちんと調べれば自閉症の発症など多くの重大な副作用は否定されているのにも関わらず、である。本書は「日本の予防接種制度はアメリカに比べて遅れている」とするが、TVドキュメンタリーなど見ると、アメリカでもこの傾向が強い。社会の公衆衛生より個人の感情が優先されてしまうのだ。
本書はワクチンに関する事実と議論を分かりやすく説明し、その重要性を説いている。前述のような状況を打開するためには、本書にあるような情報を広く伝えていくと同時に、とにかく責任回避だけを優先する厚労省の改革が必要であると感じさせる。予防接種に不安がある親御さんには特に読んで欲しい。


初版2010/12 光文社/光文社新書

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書評<アフガンの男>

テロとの戦いを続けるアメリカとイギリスの情報当局は、パキスタンでの携帯電話の通話記録からアルカイダの大物幹部の所在を知った。アジトに踏み込んだパキスタンの現地警察は、その幹部の逮捕は自殺で逃してしまったものの、彼のノートパソコンという大きな手掛かりを獲る。そこから暗号名だけが記されたアルカイダのテロ計画の存在が明らかとなる。そのテロの詳細を掴むため、イギリスのSISは元SASの英雄に白羽を立てた。巧妙かつ危険な諜報作戦は成功するのか?政治スリラーの名手、フォーサイスの最新作。

フォーサイスの最新作は、”テロとの戦い”に絡めた大規模諜報作戦。うまく実在の人物を使ってフィクションのストーリーを作り出し、また謎を最後の最後まで引っぱり、そして偶然の出来事で作戦が失敗するかも、と思わせることにより読者をハラハラさせるその手腕はさすがである。しかし登場人物の掘り下げが中途半端で、リアリティを出すためのくどいほどの状況説明もなく、やや物足りない感じは否めない。本人が意識して詳述したというタリバンとアルカイダの組織の成り立ちと構成人物の説明も、こちらに予備知識があるせいか、軽く感じる。ここらへんはハードカバー時に読めば印象は変わったのかも。総じて、フォーサイスにしては物足りないスリラーであった。

初版2010/10(文庫版)  角川書店/角川文庫

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書評<戦うコンピュータ2011>

第2次大戦以来、軍事の分野では長らく「ソフトよりハード」の時代が続いていた。いわく「世界最強の戦闘機はどれか」というわけである。コンピュータも、いわば個々の兵器の能力を向上させるためのものであった。
もちろん、いわゆるCommand(指揮)、Control(統制)、Communication(通信)、Information(情報)は戦場で主導権を握るキーであり、いわゆるデジタル・ネットワークの萌芽はすでに1960年代に見られる。しかし、近年の情報処理技術の発達はネットワークが戦術・戦略の中心となる「NCW(NetworkCentricWarfare)、ネットワークを中心とした戦争」という概念を生み出すことになった。「ハードよりもソフト」の時代に移行したのである。本書はそうした現代戦の情報通信技術を短いトピックで取り上げ、解説していく。


著者は「C4ISRの教科書」というコンセプトで本書をまとめたそうだが、バランスよく軍事における情報処理、通信技術が解説されている。例えば米海軍のリンク16が何を目指し、何ができるのか?そして次世代のリンクでは何を目指しているのかが具体的に解説されている。本書を通して感じられるのは、先に述べた「ソフトよりハード」のソフト開発の重要さと大変さである。求められるネットワークといわゆるセンサーの融合はますます高度になり、ソフト開発は困難になっていく。ここにいかに資源を投資できるかが、軍の根幹に関わる時代になったのだ。
著者には、次作はECM、ECCMについての”教科書”を希望。有事にECMでネットワークが断ち切られては戦争にならない。ネットワークの暗号化、対妨害手段は確立されているのか?そこのところが知りたい。

初版2010/10 光人社/ソフトカバー

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書評<オスは生きてるムダなのか>

地球の生物の基本は「メス」である。子孫を残すための卵はメスが産むのだから、至極当然である。地球上の多様な生物のオスとメスの関係、あるいは生殖の方法をみていくと、オスの遺伝子は生き残りのための多様性を確保するための保険に過ぎない。本書は生物学者である著者が単細胞生物から哺乳類まで”進化の木”に属する多様な生物の性別と生殖のあり方を紹介し、地球の生物にとっての性別とは何かを検証していく。

表題の「オスは生きてるムダなのか」については、本書の中盤あたりですでに結論が出ている。先に紹介したように、極端に言うと「オスはメスに寄生している」といって過言ではないのだ。しかし著者が伝えたいのは、生物の性別の決定の”いい加減さ”ではないか?昆虫はともかく、脊椎動物の魚でさえ状況によって器用に性別を選択するのだ。人間にしても、遺伝子の改編具合によって、脳は女性、体は男性あるいは体の左半分は女性、右半分は男性ということが確率は低いにしても起こりえるのだ。「性同一性障害」は精神的な疾患だと思われがちだが、生物学的にみると、胚からの発生の段階で起こる先天性疾患なのである。こうした生物の”いい加減さ”をどう感じ、どう受け入れていくか?著者が問うていうのはそこであろう。

初版2010/09 角川学芸出版/ソフトカバー

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A-7E Completed

ホビーボス1/72チャンス・ボートA-7EコルセアⅡ、完成しました。
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A-7EコルセアⅡはアメリカ海軍で1970年代~1990年代前半まで現役にあった艦載攻撃機です。チャンス・ボートの前作であるF-8クルーセイダーと形態的に似通っていますが、短期間にA-4スカイホークの後継機を求めたアメリカ海軍の要求へ対応するため、デザインワークをそのまま引用したことによります。大きな搭載量を擁したタフな攻撃機として、空母の艦上に長く留まりました。
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ホビーボスのキットは確か一昨年くらい発売の新商品。全面にスジ彫りとリベットが施されたいかにも中華スタンダードで、合いも悪くなく、ディテールもしっかりしています。機体側面のアクセス・ベイも開けた状態で製作できるなど、全体の雰囲気はハセガワの1/48のキットを参考にしていると思われます。まったくのストレート組みで、シートにシートベルトを適当なエッチングパーツを追加したくらい。やや手こずったのはクリアーパーツとの合わせくらいでしょうか。
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個人的に中華製キットの弱点の1つだと思うのがデカールのチョイスのセンスが悪いこと。なるべくハデなのを何も考えずに選んでるんですな、たぶん。というわけで、フジミのA-7EのキットからVA-98"Ravens"をチョイス。空母ミッドウェイの搭載部隊の1つです。その中でも最後期のロービジを再現。下面がクレオスC307、上面がクレオスC308のカウンターシェイドで、C338を少量添加して明るめに仕上げています。このA-7E、キットの段階から同スケール製品に比べてやや大きい印象を抱いていたのですが、デカールを貼ってあらためて、フジミのキットより大きいことが判明。
なお、武装はキットに付属のMk.81通常爆弾はそのまま使用、AIM-9Bは時代的におかしいので他キットのAIM-9Lと交換、ウェポンセットからAGM-88 HARMを持ってきています。
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基本的に「見えないところは作らない」主義で、エアインティーク内部などはあまりこだわりませんが、さすがにA-7Eのエアインティークはごまかせませんね。後でハセガワの極薄シートでも貼っときましょう。
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さて、年末までにもう1機、アメリカ海軍機を仕上げれるかな?


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