書評<アフガンの男>
テロとの戦いを続けるアメリカとイギリスの情報当局は、パキスタンでの携帯電話の通話記録からアルカイダの大物幹部の所在を知った。アジトに踏み込んだパキスタンの現地警察は、その幹部の逮捕は自殺で逃してしまったものの、彼のノートパソコンという大きな手掛かりを獲る。そこから暗号名だけが記されたアルカイダのテロ計画の存在が明らかとなる。そのテロの詳細を掴むため、イギリスのSISは元SASの英雄に白羽を立てた。巧妙かつ危険な諜報作戦は成功するのか?政治スリラーの名手、フォーサイスの最新作。
フォーサイスの最新作は、”テロとの戦い”に絡めた大規模諜報作戦。うまく実在の人物を使ってフィクションのストーリーを作り出し、また謎を最後の最後まで引っぱり、そして偶然の出来事で作戦が失敗するかも、と思わせることにより読者をハラハラさせるその手腕はさすがである。しかし登場人物の掘り下げが中途半端で、リアリティを出すためのくどいほどの状況説明もなく、やや物足りない感じは否めない。本人が意識して詳述したというタリバンとアルカイダの組織の成り立ちと構成人物の説明も、こちらに予備知識があるせいか、軽く感じる。ここらへんはハードカバー時に読めば印象は変わったのかも。総じて、フォーサイスにしては物足りないスリラーであった。
初版2010/10(文庫版) 角川書店/角川文庫
« 書評<戦うコンピュータ2011> | Main | 書評<予防接種は「効く」のか?> »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 書評<ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く>(2022.08.28)
- 書評<バルサ・コンプレックス “ドリームチーム”&”FCメッシ”までの栄光と凋落>(2022.05.25)
- 書評<冷蔵と人間の歴史>(2022.05.24)
- 書評<ザ・コーポレーション>(2022.05.23)
- 書評<狩りの思考法>(2022.04.19)
The comments to this entry are closed.
Comments