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書評<全貌ウィキリークス>

国家の機密たるイラク戦争やアフガニスタン戦争に関する画像や文書、あるいは外交公電をネットに公開し、世界の首脳たちを震撼させたウィキリークスなる組織と、そのリーダーたるジュリアン・アサンジとは何者なのか?ウィキリークスの情報公開に協力したドイツのシュピーゲル誌の編集者である著者が、アサンジ氏その人の出自と経歴、ウィキリークスの内幕にせまるノンフィクションが本書である。アサンジ氏の出自を辿ることにより、彼の行動が持つ意味を探り、ウィキリークスの目的を分析する。ウィキリークスと一緒に仕事をした著者だが、それには関係なく、脆いともいえるウィキリークスの組織構造にもせまる。さらに、従来型ジャーナリズムの代表たる雑誌編集者として、ウィキリークスのようなネットを中心とする内部告発組織との関係を自己分析する。

なんだか雨後の竹の子のごとくウィキリークス関係の本が発売されると思ったら、ウィキリークスはその情報公開の影響力を極大化するため、ドイツのシュピーゲル、イギリスのガーディアン、アメリカのニューヨークタイムスを公開の媒体として使っており、そのそれぞれがウィキリークスへの取材をまとめたものを出版しているようだ。よって、おそらく内容は似たようなものだと思われる。
ウィキリークスがこの従来のマスコミを使って情報を公開していること自体が、なかなか日本では報道されないことだ。ネット上にポッと機密情報がアップされるわけではない。その意味で、ウィキリークスとは単なる情報公開組織ではなく、アサンジ氏その人の政治目的に沿った組織であることが分かる。インターネットというのは、単なる情報収集と公開の一手段に過ぎない。決してネット時代の申し子というわけではないのだ。
では、その政治目的とは何か?9.11同時多発テロ以降、あるいはもっと前からかも知れないが、アメリカをはじめとする”偽りの民主主義”への抵抗であると推測する。機密保護の壁の向こうで、あるいはイラクやアフガニスタンで何が行われているかを暴けば、より完全な自由へと近づくであろうことを、ウィキリークスに関わる人たちは期待している。
個人的には、国民国家の政府と軍の役割を信じる信条なので、ウィキリークスの活動には少し抵抗を覚える。しかしながら、ジャーナリズムなるものが商業主義に侵され、国家あるいは巨大企業への抵抗力を失いつつある今、それなりの役割はあると思われる。そういう意味では、ウィキリークスがまだまだ注目すべき組織であることは確かであろう。

初版2011/02 早川書房/ソフトカバー

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書評<生命の跳躍――進化の10大発明>

太古の地球に生まれた小さな生命は、いかに現在の地球に満ちる生物に進化してきたのだろうか?著者はその飛躍に10の飛躍を上げる。生命の誕生/DNA/光合成/複雑な細胞/ 有性生殖/運動/視覚/温血性/意識/死である。それぞれが進化論そのものを否定し、インテリジェンス・デザインを肯定するかのごとく、複雑で画期的な発明である。それらはどのようにして生み出されたのか?本書は最新の生命科学を駆使し、それらが現在にいたった道筋をたどる。

価格が非常に高く、手に取るにはなかなか度胸のいる一冊である。しかしながら、本書に取り上げられる”10の跳躍”はそれぞれ1冊の本で論じても足りないほどのテーマであり、進化論に興味がある人ならばどれもその進化の謎を知りたい事柄であることと、その情報の正確さを考えれば安いものかもしれない。それくらいに濃厚なテーマの著書である。有力な仮説を紹介し、それを著者が持つ豊富な周辺知識で検証していく。それぞれのテーマが重なり合い、重層的に進化論を証明するその組み立ては見事としか言い様がない。正直言って、パッと一度読んだだけではとても理解できない。何度も読み直し、生命の大きな謎について考えたくなる1冊である。

初版/2010/12 みすず書房/ハードカバー

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書評<宇宙で暮らす!>

無重力や閉鎖空間で暮らすことを余儀なくされる宇宙で暮らすことは容易ではない。人類が宇宙に進出して50年余り、生理学的・精神的な問題が多々浮上し、それに対して様々な解決策が用いられてきた。宇宙で暮らすと、具体的にはどのような問題が発生し、それに対してはどんな準備をすればいいのか?近い将来に人類が宇宙で暮らすとしたら、どのような施設が最適なのか?本書はそれに対する解答である。

タイトルはライトだが、人間が地球軌道に滞在する上でのあらゆる問題を個別に取り上げ、解決策を提示する本格的な著書。原著は1990年代半ばとやや古いが、状況は2011年現在とあまり変わっていないだろう。我々はガンダムはじめとしたSFで宇宙での生活をなんとなく分かったような気になっているが、本書を読むと改めて宇宙滞在の困難さが分かる。だが、食事から排便など生理的な欲求や精神的な問題、あるいは娯楽など、日常生活の基礎から無重力でのSEXまで、それなりの解決策が現在までに見出されているのも確かである。NASAや旧ソ連のアカデミーの研究の蓄積は凄まじい。さらに人類が宇宙に進出するにあたっての一番の問題である宇宙放射線や、加速度への対処についても、楽観的な見通しが立てられていて、地球というゆりかごからの旅立ちを強くうながす構成となっている。SFを書くのにも必須の書である。


初版2011/02 築地書館/ハードカバー

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書評<クルマが先か?ヒコーキが先か?〈Mk.4〉>

今はなき<月間NAVI>に連載されていたコラムをまとめたシリーズ第4弾。我が三菱を筆頭にフィアットやBMW、ロールスロイスと自動車産業と航空機産業の両方に接点を持つ会社や技術者は数多い。本書はクルマとヒコーキにまつわる興味深いエピソードを短いコラムと味わい深いエピソードで紹介する。

掲載誌の休刊にともない、お蔵入りするかと思われたシリーズ第4弾。いわゆる軍事評論家という職業?は毀誉褒貶が激しいが、著者である岡部いさく氏の知識はハンパなく、またその真摯でオタク丸出しな態度で信頼できる方である。ゆえに、個人的にはモデルグラフィックス連載の<世界の駄作機>はもはやレベルが高すぎ、ヒコーキに関してはシロウト読者がほとんどだった<月間NAVI>連載の本コラムぐらいがちょうどいいと感じるのである。氏の書くイラストもまた味わい深いので、ぜひとも類似のコラムがまた読みたいものである。

初版2011/01 二玄社/ハードカバー

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書評<コップクラフト 3>

太平洋上に異世界との<ミラージュゲート>が開き、人類にとってのファンタジー世界の住民との奇妙な共存が始まったサンテレサ島。その治安を守るサンテレサ市警の刑事、ケイ・マトバはひょんなことから異世界の女剣士であるティラナとコンビを組むこととなる。
その奇妙なコンビが挑む今回の捜査は名門ハイスクールの女生徒の殺人事件。容姿の面からティラナがそのハイスクールに潜入する。サンテレサ市長選や名門ハイスクール独特の事情も絡み、事件は思わぬ方向に進んでいく。

80年代ハリウッドのバディ・ムービーにファンタジー世界の剣士をプラスしたシリーズ第3弾で、ガガガ文庫としては完全新作となる。著者の確かなウデのおかげで、自分たち昔を懐かしむ30代にとってはハリウッド映画を見ている気分になるし、メインターゲットの若年層には新鮮な語り口の物語になっているであろう。文庫の読者層を考慮してか舞台が高校になっているが、次作ではまた舞台を街に戻して、大活躍を見せてほしい。そう思わせる良質なライトノベルである。

初版2011/01 小学館/ガガガ文庫

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書評<破壊する創造者―ウイルスがヒトを進化させた>

ウイルスは不可思議な生物、あるいは物質である。DNAを持つものの自ら増殖はできず、宿主のDNAに紛れ込んで増殖をはかり、その過程で様々な影響を生物にもたらす。人類にとって無限といっていいほどのウイルス性疾患がその代表例であろう。だが、ウイルスは単に病原菌的な存在であるだけでなく、そのDNAの存在ゆえに生物の変異や進化に大きく関係することが近年の研究で分かってきた。本書は医師でもある著者がウイルス研究の最前線に立つ科学者たちをインタビューすることにより、進化論や臨床医学など多角的な面からウイルスと生物の関係を明かしていく。

人類のゲノム解析が終了したとき、一番の驚きは全ゲノムの半分以上がジャンクであり、機能性を持たないことであった。そのジャンクは何がもたらしたのか?それこそがウイルスであり、遺伝子に介入するということは生物の進化に大きな影響を与えることは想像に難くない。ウイルスは宿主にとって病原となる破壊者でありながら、変異に影響をもたらす創造者なのである。本書はこうした知られざるウイルスの姿を知ることができる。特にガンをはじめとした医療に関する章は、著者が医者だけあって詳細であり、ウイルスといえば感染症絡みという我々の単純な思い込みを正してくれる。自己増殖できないゆえにウイルスを無生物と判断する科学者も多いが、DNAの存在とその変異の早さはやはり生物と判断すべきであり、疾病の面だけでなく、生物としてもっと注目されるべき存在であろう。

初版/2011/01 早川書房/ハードカバー

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書評<眠りにつく太陽――地球は寒冷化する>

太陽は決して一定のエネルギーを放っているわけではない。ほぼ11年周期で黒点の増減があり、その核融合活動は変動を繰り返している。ところが近年、太陽の活動は不活性化したまま固定しつつあり、地球に及ぼす影響が懸念され始めている。人為的地球温暖化説が叫ばれる昨今だが、本書はまったく反対の太陽活動の影響による地球寒冷化のシナリオを探る。

個人的に「人為的地球温暖化説」には懐疑論者だが、その根拠の1つが本書のテーマである太陽活動の不活性化である。2010年の時点ですでに11年周期であるはずの黒点活動の低下は13年目に突入していて、このままの状態が続けば中世の小氷河期のような地球寒冷化のシナリオが現実になる可能性が高いのである。太陽活動が低下していて地球の平均気温が上がっているのなら、やはり地球は温暖化しているのかと思いがちだが、日照量の低下と気温はそう簡単に比例するものではなく、複雑な変化をもたらすものである。現に、2011年初頭の北半球は厳寒の冬を迎えている。
太陽活動に比べれば、人類の活動などものの数ではない。資源の無駄遣いはもちろん正さなければならないが、ヒステリックな環境論は人類の経済活動に悪影響を与えかねない。

初版/2010/10  祥伝社/祥伝社新書

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書評<番狂わせ 警視庁警備部特殊車輌二課>

東京湾岸に警視庁特車二課、通称レイバー隊が設立されて10年になんなんとする時間が経った。レイバーが持てはやされた時代は過ぎ去り、部隊の存在すら危ぶまれている時代。
そんな中、元高校サッカー部の隊員に潜入捜査の命令が下る。プレミアリーグのビッグクラブが来日して親善試合が行われるのだが、その試合中のテロが予告されたのだ。特車二課が創設されたころを思い出す、警備部の権限を越えた捜査活動は身を結ぶのか?予告のあった試合日は刻一刻とせまる。

押井カントクフリークには待望の「機動警察パトレイバー」絡みの新作ノベル。だが、その実体は”パトレイバー完全否定ノベル”といっていい。これまでのカントクの発言やエッセイから予測は出来たものの、「レイバーが存在する世界観」そのものが否定されるような特車二課の扱いはどうにも納得できないものがある。
作品そのものはカントクのノベルにありがちな”ウンチク”小説であり、今回のテーマはサッカーである。しかしサッカーというメジャースポーツにあっては、自分レベルのにわかサッカーでも知っているエピソード、あるいは戦術論ばかりであり、教養にもまったくならない。
サッカーを語りたいのであれば、何もパトレイバーをお題に持ってくることもなかろう。疑問ばかりが残る作品である。

初版2011/01 角川春樹事務所/ソフトカバー

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書評<過激派で読む世界地図>

冷戦の終結以降、国家同士の大規模戦争の可能性が少なくなると同時に、世界中でいわゆる”過激派”が世界の安全保障を脅かす主役となった。アルカイダをはじめとするイスラム過激派が目立つ存在となっているが、自分たちの主張を通すために無差別な暴力を厭わない過激派は世界中に存在する。本書では世界中に散らばる過激派を、その主張やルーツを辿りながら紹介していく。

新書なので各々のグループに深入りすることはないが、世界の国々が不正規紛争の”敵”とするグループ俯瞰することができる一冊である。旧ソ連あるいは中共の拡大政策のために民族国家を立てることができず、独立を切望するグループ。イスラム原理主義あるいはキリスト教原理主義を追求するグループ。民衆の貧困につけこむ左翼グループ。そして、それぞれグループの主張が少しずつ重なるところが、過激派勢力を削ぐことを難しくしていることがよく分かる。もう一つ感じるのは「貧困こそがテロの根源だ」というもっともらしい主張はまったくの間違いだ、とまではいかないが疑わしいことだ。各グループのリーダーや指導者は、オサマ・ビン・ラディンは言うに及ばず、それなりに裕福である。その環境の中で、彼らがどのような憎悪を抱いていくのか、そこを考えなければ”テロルの時代”は終わりそうにない。

初版/2011/01 筑摩書房/ちくま新書

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