書評<過激派で読む世界地図>
冷戦の終結以降、国家同士の大規模戦争の可能性が少なくなると同時に、世界中でいわゆる”過激派”が世界の安全保障を脅かす主役となった。アルカイダをはじめとするイスラム過激派が目立つ存在となっているが、自分たちの主張を通すために無差別な暴力を厭わない過激派は世界中に存在する。本書では世界中に散らばる過激派を、その主張やルーツを辿りながら紹介していく。
新書なので各々のグループに深入りすることはないが、世界の国々が不正規紛争の”敵”とするグループ俯瞰することができる一冊である。旧ソ連あるいは中共の拡大政策のために民族国家を立てることができず、独立を切望するグループ。イスラム原理主義あるいはキリスト教原理主義を追求するグループ。民衆の貧困につけこむ左翼グループ。そして、それぞれグループの主張が少しずつ重なるところが、過激派勢力を削ぐことを難しくしていることがよく分かる。もう一つ感じるのは「貧困こそがテロの根源だ」というもっともらしい主張はまったくの間違いだ、とまではいかないが疑わしいことだ。各グループのリーダーや指導者は、オサマ・ビン・ラディンは言うに及ばず、それなりに裕福である。その環境の中で、彼らがどのような憎悪を抱いていくのか、そこを考えなければ”テロルの時代”は終わりそうにない。
初版/2011/01 筑摩書房/ちくま新書
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