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書評<錯覚の科学>

人間は視覚を中心とした五感を駆使して周辺状況を認識している。だが多くの場合で、その視野はコンディション次第で狭くなったり広くなったりするし、多くの場合、見たいものしか見ていない。しかも問題なのは、人間がそうした状況においても「自分はしっかりと状況を認識している」と自覚していることである。著者は心理学の面からこの”錯覚”を明らかにしていく。注意・記憶・自信・知識・原因・可能性の6つに錯覚を分類し、それが実験的な科学としてどのように証明され、人間の行動や認識にどのような影響をもたらすのかを明かしていく。

人間の大脳は物事の認識能力を高く、個々の状況の相関関係の認識を得意とし、それが他のほ乳類との違いを生み出している。だが、ホモ・サピエンスとなって200万年余りの時間では、それを完璧なものとするにはまだ時間が足りないようようで、多くの錯覚を起こす。本書はそうした人間の状況認識の不完全さを明かし、誤解に基づく自信がいかに多くのトラブルをもたらすかを説明する。本書に書いてあることを読めば、ケータイのながら運転がいかに危険かが理解できる。
さらに本書は近年のお手軽で、商業主義的な脳科学へのアンチテーゼとなっている。ちょっと前ならモーツァルトを聞くと頭が良くなるとか、近年ならゲームの脳トレとか、”頭が良くなる方法”が”科学”として取り上げられ、ちょっとしたブームになっている。だが、多くの場合、それは”錯覚”である。脳のどの部分がどの感覚をつかさどるのか、脳の活動はどのようなものかがMRIその他で明かされるようになってはきているが、それは科学の根拠である実験で実証されているものではない。お手軽脳科学の多くが、まだ未解明の分野なのである。よくテレビで見る茂木某あたりが喋っていることがいかに科学的ではないか、本書は訴えている。心理学においても、科学とは実験なのである。

初版2011/03 文藝春秋/ハードカバー

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