書評<ヒトはなぜ死ぬのか>
多細胞生物の”死”が、あらかじめ遺伝子に組み込まれていることが分かってきたのは、1970年代以後のことである。テロメアと呼ばれる遺伝子が1回細胞分裂するごとに回数券のごとく減っていき、プログラムされた回数に達すると、細胞は自壊していく。これをアポトーシスという。神経細胞や心臓細胞といった非再生細胞を除けば、すべての細胞がアポトーシスによって死んでいく。無限に分裂するガン、あるいは免疫不全を引き起こすHIVウイルスには、アポトーシスが深く関わっている。本書はそうしたアポトーシスの概念を分かりやすく解説し、ガンやエイズを根治するゲノム創薬へのチャレンジについて平易に語られている、アポトーシスの入門書である。
アポトーシスとテロメアの存在は、ガン研究の発展とともに一般にも知られるようになってきた。無限に細胞が増殖するガンはテロメア遺伝子の異常が1つの原因であり、他の重大な病気にもアポトーシスが関わっていることが分かってきている。また、テロメア遺伝子を制御することができれば、生物の寿命を制御できるかも知れないということで、ハードSFやアニメでは早くから用いられてきたモチーフでもある。本書はアポトーシスの概念を、主に医療との関わりを軸に説明されている。著者は、困難ながらも切り札となりえる遺伝子治療に関わっており、アポトーシスを制御するゲノム創薬に大きな期待をかけながらも、その限界にも触れている点で、本書の姿勢には好感が持てる。細胞というシステムの深遠の入り口に触れることができる新書である。
初版2010/07 幻冬舎/幻冬舎新書
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