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書評<乾燥標本収蔵1号室―大英自然史博物館 迷宮への招待>

博物館は、その展示物がすべてではない。その奥には膨大なコレクションが存在し、それを管理するキュレーターと、そのコレクションを利用して研究に勤しむ科学者がデスクに向かっている。なかでも、博物館の元祖といっていい大英博物館は19世紀から膨大な生物・鉱物のコレクションを収集し続けている。本書は三葉虫を専門とする古生物学者であり、30年間、大英博物館の職員であった著者が、奇矯な科学者たちの生態を明かしつつ、分類学と博物館の存在意義を語り、紹介するものである。

自然科学の本を読むとき、新たな知見を得るために苦痛をガマンしつつ本を読み進めることもあるのだが、本書は文句なしに面白い。ベッドを共にした女性を陰毛を貼りつけてリスト化した分類学者。自分の研究対象に似ていた昆虫学者たち。天下の大英博物館のキュレーターをひっかけた詐欺師。若手を奴隷のように扱う女性科学者。科学にまつわる奇妙な人々をユーモア溢れる語り口で紹介しながら、分類学や古生物学の歴史、スキャンダルやトピックを挟み込んでいくその文章構成は巧みで、どんどんと大英博物館の”迷宮”に入っていくことができる。
さらに言えば、大英博物館のその変遷を辿れば、英国そのもの歴史を学ぶことにもなる。植民地から収奪といっていいくらいの膨大な標本を集めていた時代は、同時に貴族たちが科学者たちのスポンサーだった時代でもある。典型的な官僚組織といっていい博物館も、やがて効率が求められ、科学者たちも成果が求められる現代になっていく過程は、英国の力の衰えとそれに対する改革の時代と重なる。博物館も、資本主義の変遷と無関係にはいられないのだ。
大英博物館の膨大なコレクションの人類の知見への貢献度は計り知れない。それがどんな人たちに支えられているのか、その一端を知ることができるのが本書である。

初版2011/04 NHK出版/ハードカバー

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