書評<サッカー バルセロナ戦術アナライズ>
10-11年のシーズン、バルセロナはリーガ・エスパニョーラとチャンピオン・リーグのダブルを達成。結果だけでなく試合内容も、ライバルのビッグクラブたちを圧倒していた。ショートパスを正確に繋いでボール支配率を高め、シュートに結びつけるその戦術で他を圧倒したクラブのセオリーとはどんなものなのか?現在のバルセロナのスタイルを確立したクライフ監督率いる”ドリーム・チーム”まで遡り、そのフォーメーションとタクティクスを分析、さらにバルセロナの内部スタッフを経験した人物へのインタビューを通して、バルセロナの戦い方を明かしていく。
実は個人的には”アンチ・バルセロナ”だったりする。バルセロナはショートパス主体で常に攻撃的で技術溢れるプレーを展開するわけだが、魂のこもったヘディングシュートも見たいし、美しい弧を描くクロスもみたいのである。攻められっぱなしなのに一本のロングパスで状況を打開する展開なんてのも最高だ。
とはいえ、バルセロナが世界一のサッカーをしているのは確かである。それは個々の選手の高い技術よりも、むしろ戦術に依存している。本書は戦術分析には定評のある著者が、バルセロナの戦術のキモになる部分を明かしていく。評論家に分析できるならプロの監督が分析できないわけがなく、対抗策を練れないわけがないのだが、それでも他の競合クラブが勝てないわけを、著者は育成部門の人物へのインタビューを通して、戦術の背骨となる基本理念というべき”哲学”に見いだす。クライフ(もとはミケルス)がもたらした哲学に基づいて戦術を組み立て、その戦術をこなせる選手を育成、あるいは育てる。それが現在のバルセロナの栄誉につながっているのだ。
素人目にはバルセロナのプレーヤーは”スーパー”な感じはしない。あのメッシでさえ、アルゼンチン代表では輝きが薄れる。屈強なマーカーに囲まれる中で、なぜ彼らのショートパスだけが敵をあざ笑うかのようにつながって得点に結びついていくのか?それが少しだけ分かった気になるのが本書である。
初版2011/06 カンゼン/ソフトカバー
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