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書評<エイズを弄ぶ人々>

「エイズ(後天性免疫不全症候群)はHIVウイルスに感染、ウイルスが免疫をつかさどる細胞を攻撃することにより、免疫能力が劇的に下がり、通常なら感染することのない細菌やウイルスに感染し、重篤な状態に陥る病気である。」死に至る新たな性感染症として登場した衝撃から、先進国ならこのような知識がほぼ常識になっていると思われる。しかしながらアメリカを中心として、HIVウイルスとエイズの関係を否認し、エイズを政府の画策する人口抑制、あるいは製薬会社の利益のための陰謀だとする考え方が広まりつつある。それがいわゆるエイズ否認主義者たちである。一部に高名な科学者も含まれるため、南アメリカでは大統領もエイズ否認主義者となり、それが政策に反映され、多くの死者を出すことになった。エイズ否認主義者たちはどのようにして生まれ、どんな主張をし、どのような考え方に支えられているのか?本書は日本ではあまり知られることのない、危険な陰謀論を解説する。

エイズは当初、同性愛者や薬物中毒者にその患者が集中したこと、原因となるHIVウイルスの第一発見者の名誉を2人の科学者が争うという論争があったことなどから、当初から陰謀論に巻き込まれる要素があったことは否めない。しかしながら医療科学と統計はエイズの真実を既に明らかにしており、陰謀論の入る隙間はないように思える。だが、高名な科学者は自らの虚栄心を満たすため、HIV感染者はつかの間の安心を得るため、保守主義者は同性愛者を自らと遠ざけるため、エイズ否認主義を用いる。それが死に至る病にも関わらず、だ。本書はエイズ否認主義に警告を発し、否認主義者たちを糾弾する。「そんなこと常識」とばかりに正統派の科学者は沈黙しがちだが、それでは声の大きな否認主義者たちに勝てないと著者は訴える。現代においては科学は魔法の一部のようにもなりつつあり、おとぎ話にしっかりと対抗しなければならない時代にあることを本書は感じさせる。
日本でも東日本大震災以来、危うい陰謀論をちらほらとネットで見かける。本書の訴えかけてくるものは大きい。

初版2011/01 化学同人/ハードカバー

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