書評<深海生物学への招待>
地球の深海は太陽系の惑星より研究が進んでないとはよくいわれることである。その高い水圧は人類を容易に近づけず、太陽の光が届かないためあらゆる生物は存在しないと考えられていた。だが、潜水艇の技術の発達は人類は深海に到達し、そこで新たな生物圏を発見することとなる。海底の熱水噴出孔を中心として、太陽光に依存しない不可思議な生物群が存在していたのだ。本書はその中でも特異な生物であるチューブワームを中心として、生物学にパラダイムシフトを促した深海の生物たちを解説する。
本書の初出は96年だが、今なお深海の生態系への驚きは色褪せない。著者は実際に日本の誇る<しんかい6500>などの潜水艇に搭乗して深海研究の現場に赴いており、その驚きが伝わるような描写は見事だ。本書は深海生物学の招待というタイトルどおり、世界の深海研究の歴史から、深海生物学の発展まで一通りの歴史を知ることが出来る。見ることの出来ない海底を想像し、様々な仮説を立て、それを現場での発見で証明してきた生物学の正統な流れを体感できる。
また、著者は本書の刊行の後に、様々な著作を発表しているが、徐々に自分の研究分野と、支持する学説を変えている。15年の生物学の発展がどのように一人の生物学者の学説を変えていくのか、それを追うのもまた興味深い。
初版1996/08 NHK出版/NHKブックス(新書)
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