書評<なぜシロクマは南極にいないのか: 生命進化と大陸移動説をつなぐ>
北極と南極の気候は違いがあるものの、地球でもっとも過酷な土地であることには変わりない。だが、その生物相は大きく異なる。南極にシロクマはいないし、北極にペンギンはいない。こうした不思議な生物分布は、世界中あらゆるところで見ることが出来る。そしてそれはプレートテクニクスによる大陸移動と、生物進化のルールのせいだ。本書は生命と地球の統一理論である「生物地理学」の考え方をもとに、こうした生物分布の謎を明かしていく。
これまでもこのブログでは多くの進化論の関係書を紹介してきたが、生物の進化が環境に大きく影響されることを考えると、プレートテクニクスを含めた地学とも当然関わらなければならない。それらを統合したのが「生物地理学」であり、それとはっきり名乗らなくても、進化論には欠かせない考え方である。本書はいわばその基礎を教えてくれる。
進化論には多くのキーワードがあるが、本書においては「隔離」であろう。今も揺れ動く大陸移動による隔離が、現在の謎多き生物分布を生んでいる。それは何も地上だけではなく、海中もまた海流や海峡による隔離により、今は同じ外見に見える魚類や海棲ほ乳類も、徐々に分化してきているのだ。
これは人類も一緒で、有名な鎌型赤血球を持つ人の分布など、一般に考えるより地域に住む人の差は大きい。それがいわゆる肌の色で分ける人種と重ならないのも面白いというか、厄介なところだ。本書ではこの人類に関する章が一番面白い。我々は自らを肉食動物や大型爬虫類に比べてかよわい存在で、ゆえに”知恵”によって地球全土にその生息域を広げたと思いがちだが、実は人類の身体能力のオールマイティーさは他の動物にはない。人類はライオンよりも速く泳ぐし、ワニよりも速く走る。身体能力もまた、人類がその覇権を拡げる大きな要因なのだ。
本書は生物地理学がこうした新たな知見を与えてくれる学問であることを教えてくれる、優れた入門書だ。
初版2011/08 化学同人/ハードカバー
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