書評<もうダマされないための「科学」講義>
東日本大震災、正確には福島第一原発の事故以来、日本では広い意味での”科学”への信頼が揺らいでいる。もちろんずっと前から疑似科学の問題などあったわけだが、現代科学の象徴の一つである原発の「絶対安全」が崩れたことで、学者さん含めて不信が大きくなっている。人が懐疑的になるのはむしろいいことだが、問題はそれにつけこんでデモや不正確な予測、科学とは名ばかりのイデオロギーを撒き散らす人が表舞台に出て、人々に影響をおよぼすことだ。本書はこうした日本の状況において、科学をどのように捉えて関係すべきか、どのように疑似科学と区別をつけるのか、科学哲学者やジャーナリストが講義形式で説明していくものである。
放射線が人体に与える影響をどう見積もるかは研究者によって千差万別だ。同様に原発を巡る議論も、もはや冷戦時代のごとく、相容れないイデオロギーになりつつあると感じる。そんな状況の中で「科学的な真実らしきもの」を掴むためのアドバイスとなるのが本書である。科学と疑似科学の間にあるものは何か?報道はどのように科学をゆがめているのか?科学哲学なる分野は判断の一助となるのか?お手軽な新書の割には、興味深い分析が掲載されている。各章に共通するのは、事象を「シロかクロか」と単純化したがる現代の報道と、それにのってしまう一般人の浅い判断が、世論を歪めているということ。本書はそうした傾向に警鐘を鳴らし、多面的なものの見方を薦めている。それは何も原発だけではなく、遺伝子組み換え食物も、花王「エコナ」の発がん性物質の問題も同じこと。本書は改めて科学的思考の大切さを教えてくれる。
初版2011/09 光文社/光文社新書
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