書評<“不機嫌な”太陽―気候変動のもうひとつのシナリオ>
地球温暖化による危機が叫ばれる昨今だが、46億年におよぶ地球の歴史を遡れば、大規模なものから小規模なものまで、気候変動が繰り返されていることが証明されている。だが、気候変動の要因を説明する様々な学説は、どれも完全ではない。本書の著者はそれに挑戦しようとしている。著者が気候変動の根本的な要因としているのは、天の川銀河で繰り返される、超新星の爆発とそれにより放出される宇宙線だ。その宇宙線が大気をたたくことによって形成される雲量の変化が、気候変動の要因だというのである。地球の磁気圏が太陽風から地球の生命を守るように、太陽の磁気圏が太陽系を宇宙線から守っているわけだが、太陽活動の大小により、地球に降り注ぐ宇宙線が増減、それが雲量の変化をもたらす。これが繰り返す気候変動の要因であると著者は主張するのだ。そして、著者はさらに踏み込む。太陽系自体の天の川銀河での軌道、すなわち渦巻き状銀河の”腕”に出入りすることににより宇宙線が増減し、”腕”に入って放射線が飛躍的に増加した時期が、長い氷河期、そして全地球凍結と重なるというのである。本書はいまだ異端である「気候変動の宇宙線原因説」の入門書である。
個人的に地球生命の長い歴史と気候変動に興味があり、様々な学説を取り扱う本を読んできたが、気候変動をもっとも簡素に説明し、なおかつ納得にたる学説に出会ったと感じさせてくれたのが本書である。二酸化炭素を原因とする人為的地球温暖化はもはや検討するに足りず、太陽活動の変化こそが気候変動の本命と個人的に考えていたのだが、その太陽が放出する太陽風そのものではなく、太陽風の増減により変化する宇宙線の増大こそ気候変動要因の本命とする本書の学説は、非常に新鮮だ。繰り返す気候変動、繰り返す氷河期、繰り返す生命の大量絶滅が天の川銀河と太陽系の関係により、シンプルに説明できるのだ。地学・生物学・天文学が積み重ねた研究の歴史が、著者が主張する学説を後押しする。
ただし、あまりにも明快すぎて、にわかに信じがたいのも確かである。ものごとは複雑で、たった一つの要因がすべてを左右することはあり得ないというのが、自分の信条。もう少し、研究の成果を待ちたい。
書評2010/03 恒星社厚生閣/ソフトカバー
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