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2011.12.12

書評<ナチスの発明>

第2次大戦のヨーロッパにおける「悪の権化」であるナチスとヒトラーだが、第1次大戦による疲弊とベルサイユ条約の重い負担からドイツ国民を救うことによって、大衆を引きつけたのは歴史的事実である。そこには多くの技術的革新と、社会制度の革新があった。技術的革新に代表されるのは2次大戦時の革新的な兵器はもちろん、ヒトラーの演説を支えたPA装置や国民車、フォルクスワーゲン・ビートル。社会的革新に代表されるのは、意外なほど人道的な労働法の制定やスポーツあるいは観光の振興。本書はこうしたナチスの革新を紹介する。

ミリオタ、航空機オタ的には、後退翼やデルタ翼あるいはV2ロケットなど、ドイツの宇宙航空技術の異常ともいえる発展はよく知られるところである。ソ連のロケットなんて、いまだV2ロケットの遺産で飛翔しているといっていいぐらいだ。だが、本書のキモはそうした技術的な革新よりも、ナチスの制定した社会制度の方にあると思う。科学技術の方は、19世紀末からの科学の発展が各国で花開いたのがナチスの隆盛と重なっていたのであり、遅かれ早かれ各国がその技術に追いついたからこそ、ドイツは敗戦したともいえるからだ。
対して、公共事業による失業者対策、女性の登用、1日8時間労働、休暇取得の推進といった大衆に優しい社会制度の制定は、ナチスが大衆の支持を得るために「発明した」といえるのではないか。「ドイツ国民が民主的に独裁者を選んだ」とよく言われるが、それは何もカリスマに全国民が魅かれたわけという理由だけではない。ナチスはある意味でのユートピアをつくろうとしていたのだから。
もしヒトラーに領土的野心とユダヤ人に対する差別心がなかったら、ドイツという国はどうなっていたのか?そんなことを考えてしまうが、それもまたナチスの戦略と不可分であることも思い出さなくてはならない。どこかに負担をかけないとユートピアなんぞはありえない。それもまた我々が「ナチスの発明」から学ばなければならないことであろう。

文庫版初版2011/09 彩図社/文庫

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