書評<放射線医が語る被ばくと発がんの真実>
東日本大震災に伴う福島第一原発の事故に伴い、放射線に対する不確かな情報が飛び交っている。ネットだけで情報に接していると、今回の事故での放射線の影響は、福島第一原発近隣を除けば自然環境下の被曝と誤差範囲内という”安全厨”と、もはや福島県民は移住して土地を棄てるべきという”危険厨”の両極端に国民が分断されていると感じしてしまうほどだ。本書はそうした状況下、現役の放射線科医が放射線の被曝量と発がんの関係を簡潔にまとめたものである。結論からいうと、今回の事故ではがん関係の患者は増加せず、むしろ過剰な対応に伴う避難生活の方がストレスを貯め、寿命を縮めてしまうというのが著者の判断だ。広島・長崎の原爆による被爆者とチェルノブイリの事故による被爆者から集めたデータから、そのことを説明する。
Amazonの投稿レビューを見るだけで、今回の事故に対する状況判断が分断されているのが分かる。本書はいわば”安全派”の本であり、今後のリスク管理をしっかりすれば、目に見えてガンが増えるという事態は考えられないとしている。重要なのは何をリスクとして捉えるかだ。例えば、本書によると現状の低容量放射線被曝と喫煙を比較すると、発がんリスクは喫煙が2倍高いそうである。福島の緊急避難準備区域に住んでいる人より、上司の副流煙を吸ってるオレの方が、発がんリスクが高いのだ。同様に放射性物質の含有が怖いからといって、偏食を重ねているとそちらの方が疾病の罹患リスクが高い。本書に書いてあることが100%正しいとは言わないが、どうすれば現状のベストなのか、参考の一助にはなろう。
初版2012/01 ベストセラーズ/ベスト新書
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