書評<スパイス、爆薬、医薬品 - 世界史を変えた17の化学物質>
香辛料、砂糖といった食料に関係するもの、ゴムや綿といったマテリアル、抗菌剤やペニシリンといった医薬品まで、我々の世界は化学物質に囲まれている。化学物質というと、なにやら複雑な化合物を想像するが、文明生活の基礎は化学物質によって支えられているのだ。そしてこれら化学物質は発見や発明、あるいは大量生産の方法を開発されるたび、人類の歴史を大きく変えてきた。本書は特に重要な17の化学物質を取り上げ、その物質の特性を明かし、人類の歴史をどのように変えてきたかを考察する。
あるテーマやモノを中心にして歴史を組み立てる作業を積み重ねた本は多いし、本書で扱う化学物質それぞれの歴史書もあるだろう。本書はユニークなのは「歴史を変えた物質」の化学式を添えていることであり、まったく別個と思い込んでいる化学物質が、実は様々な関係を持っていることを指摘していることにある。人類の歴史を変えた物質は意外と少ない元素で構成されており、構造式のほんのわずかな違いが大きな歴史をうねりを生んでいたりするし、そのほんのわずかな違いを作り出すのに、科学者は悪戦苦闘する。それがなんとも興味深い。
化学物質というと人体に有害なものを想像しがちな昨今だが、天然由来であれ合成由来であれ、化学式が一緒である限り、その効果は変わらない。その意味において香辛料や砂糖も立派な化学物質なのである。そうした当たり前のことを思い出しながら読むと、例えば食品添加物に対して別の見方を得ることが出来る、そんな良書である。
初版2011/11 中央公論新社/ハードカバー
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