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書評<魚は痛みを感じるか?>

我々人類はいつからか農耕と家畜で食料を調達することを学び、狩猟動物ではなくなった。だが、数少ない狩猟の対象が魚類だ。もちろん養殖も盛んになりつつあるが、様々な形態の漁業とフィッシングがまだ人類の魚類調達手段の主体である。自然保護と動物福祉が叫ばれる昨今、それに真っ向から対立する狩猟の対象である魚類は、果たして痛みを感じるのか?痛みを感じるのなら、我々は魚の取り扱いをどのように変えなければならないのか?本書は「痛み」を科学的に解析し、魚類に対する”福祉”を提案する。

釣りをしたことがある人なら、引っ掛けた魚はバタバタと暴れるし、掴むと嫌がるしで、当然痛みを感じているもんだと思っているのではないだろうか?ところが身体の損傷や呼吸困難に対する反応と、いわゆる感情・情動としての「痛み」は別なのだそうだ。本書の著者はその「痛み」を魚が感じてるかを実験で確認する研究を手がけ、「痛み」を感じると結論づける。思いのほか魚の神経系統は発達していて、知能も想像するより高いのだ。そこから、著者は我々の魚類の扱い方の再考を促す。それは何も極端な自然保護を訴えているのではなく、魚を大切に扱うことで、結果的に資源としての魚類を守ることが出来、また養殖もうまくいくこととなる。
完全にタイトルだけで衝動買いしたが、魚類の繊細さをあらためて考えさせられる一冊であった。

初版2012/02 紀伊国屋書店/ハードカバー

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書評<FBI美術捜査官―奪われた名画を追え>

名画や骨董品の盗難というと、前時代的な犯罪だと思いがちだが、実は近年増加傾向にある。それは富裕層の奇特な秘密コレクションなどではなく、麻薬・金融犯罪のマネーロンダリングに関する取引の材料となるのだ。そのため、誰かに鑑賞されることもなく倉庫にしまわれ、ときには喪失の憂き目に会う。こうしたことから、これら名画の盗難事件は単なる盗難事件というより、人類文化の損失だ。本書は、そうした盗難事件を専門に扱ってきた、FBIの捜査官が特殊な犯罪捜査の内幕を自ら明かしていく。麻薬ディーラーや強盗、テロリストを追う”通常の”連邦局の捜査とは違う、特殊な知識と技能を生かした著者の数々の捜査を解き明かす。

アメリカではハリウッド映画の、日本ではアニメとマンガの影響で、美術館からの名画の盗難というと、妙にロマンチックに感じる。だが実際は、徹頭徹尾金銭を目的とする犯罪だ。だが、名画という特殊な商品を換金するのは難題で、そこに捜査官が付け込む余地がある。ゆえに捜査はおとり捜査が主体となり、捜査官の知識と能力が問われることとなる。本書は数奇な来歴を持つ著者が、数々の捜査の内幕を明らかにしていく。自らも芸術に対する知識を深め、数々の駆け引きをこなしていく著者の捜査はなんともドラマチックだが、一方で官僚組織たるFBIゆえの縄張り争いや上司との衝突もリアルに描かれる。数々の映画で描かれてきたFBIの捜査とはまったく違う、特殊な捜査活動を知ることができる貴重なノンフィクションだ。

初版2011/06 柏書房/ハードカバー

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書評<争うは本意ならねど  ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール>

2007年、川崎フロンターレ所属の我那覇和樹はスポーツ紙の報道からドーピングを疑われ、6試合の出場停止処分を受けてしまう。しかしながらその”にんにく注射”は事実ではなく、また実際にチームドクターによって行われた医療行為は国際的なドーピング・ルールに照らし合わせれば、なんら違法なものではなかった。Jクラブのチームドクターの抗議もかなわず、我那覇の裁定は覆らない。そこで我那覇は意を決し、CAS(国際スポーツ審査機構)への提訴を決意する。当事者への取材や会議議事録を丹念に拾いながら、最終的に冤罪を晴らした我那覇と彼を支える人々、チームドクターたちのノンフィクション。

日本のサッカー界と、それを統括する日本サッカー協会をそれなりに長い間見ていると、他のスポーツの統括組織に比べればいくぶんマシながら、それでも欠点を抱えていることに気づく。それは協会組織の硬直化と学閥だ。協会の権威を守るため、出身大学の派閥の人間を守るため、間違っていることを訂正できない。我那覇の冤罪は、そのために起こったことだ。幹部の拙速な判断を、現場のミスにしウヤムヤにしていく。
日本のサッカー界にとって幸運だったのは、それに抵抗する人たちがいたことだ。他チームのドクターたち、他ならぬ我那覇と、それを支える人たち。昨年の震災の際にも感じたことだが、新しい世代の日本のサッカー・ファミリーのサッカーとプレイヤーへの献身的な愛には感心しきりである。
いかにも日本的な組織の特徴を引きずるサッカー協会と、Jリーグ開幕以降にサッカーに関わった人たちの世代間抗争。現在の日本社会の縮図のようにも感じる、本書の読後感であった。

初版2011/12 集英社インターナショナル/ハードカバー

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F/A-18C"ChippyHo!(1995)" Completed

ホーネット祭りに向けて年始から取り掛かっていたアカデミー1/72マクダネル・ダグラスF/A-18Cホーネット"ChippyHo!'95"、完成しました。
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F-4ファントムⅡとA-7コルセアⅡと後継として導入された艦上戦闘攻撃機、F-18ホーネットは導入当初からカウンターシェイド・スキムが導入された機体であり、ゴーストグレイの地味な機体が艦上に並ぶことになりました。しかしながら導入当初はロービジ化が徹底されたものの、派手好きなU.S.NAVYのこと、CAG機を中心としてカラフルなマーキングが復活し始めました。なかでも群を抜いているのが、二次大戦終結50周年の1995年に登場したVFA-195"ChippyHo!(1995)"です。

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Chippyとはアメリカのシンボルの白頭鷲の俗称で、本機はそのヘッドをレドームに大描きし、各所にスコードロンカラーのグリーンを散りばめています。当時の航空ファンイラストレイテッドによると、航空機用塗料の調達が難しく、居を同じくする海自にも協力してもらったとか。ちなみに、APG-65のレーダーは問題なく作動するそうです。

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キットはアカデミーのF-18Cを使用。RoneStarさんちのフラップダウン・ウイングを使って動きを出してます。また、この時期はまだ機首のIFFアンテナがないので、削り取ってます。デカールはプラッツの別売品を使用。コーションマーク含めて問題なくフィットします。大判の白頭鷲の頭をなじませるのは強力なGSRのデカール軟化剤を使用。半乾きのところでアンテナフェアリングの部分などわざわざ切り取ってるんですが、写真よく見るとそこも塗装してるんですな。やや失敗。「NO PAINT」の思い込みは危険です。

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デカールフィットにやや手間取ったうえ、完成直前で落下を経験し(泣)、よくよく見るとアラがあるのですが、狙った雰囲気は出てるので個人的には非常に満足。SHSで見かけた際は、生ぬるく見守ってやってください。

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書評<スパイス、爆薬、医薬品 - 世界史を変えた17の化学物質>

香辛料、砂糖といった食料に関係するもの、ゴムや綿といったマテリアル、抗菌剤やペニシリンといった医薬品まで、我々の世界は化学物質に囲まれている。化学物質というと、なにやら複雑な化合物を想像するが、文明生活の基礎は化学物質によって支えられているのだ。そしてこれら化学物質は発見や発明、あるいは大量生産の方法を開発されるたび、人類の歴史を大きく変えてきた。本書は特に重要な17の化学物質を取り上げ、その物質の特性を明かし、人類の歴史をどのように変えてきたかを考察する。

あるテーマやモノを中心にして歴史を組み立てる作業を積み重ねた本は多いし、本書で扱う化学物質それぞれの歴史書もあるだろう。本書はユニークなのは「歴史を変えた物質」の化学式を添えていることであり、まったく別個と思い込んでいる化学物質が、実は様々な関係を持っていることを指摘していることにある。人類の歴史を変えた物質は意外と少ない元素で構成されており、構造式のほんのわずかな違いが大きな歴史をうねりを生んでいたりするし、そのほんのわずかな違いを作り出すのに、科学者は悪戦苦闘する。それがなんとも興味深い。
化学物質というと人体に有害なものを想像しがちな昨今だが、天然由来であれ合成由来であれ、化学式が一緒である限り、その効果は変わらない。その意味において香辛料や砂糖も立派な化学物質なのである。そうした当たり前のことを思い出しながら読むと、例えば食品添加物に対して別の見方を得ることが出来る、そんな良書である。

初版2011/11 中央公論新社/ハードカバー

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書評<ニッポン異国紀行―在日外国人のカネ・性愛・死>

昨今、地域にもよると思うが、在日外国人あるいはそのコミュニティの存在はずいぶんと身近に感じられるようになっている。しかしながら、当たり前のことながら日本人とは民族も宗教も違うため、死亡時や医療に対する慣習もまったく違う。我々が日常生活でのぞけない在日外国人たちの生活の現在を、著者が体験的に明らかにしていく。

自分は牡蠣が特産の瀬戸内の小さな島の出身だが、いまやそんなとこにも牡蠣の殻外しのために、外国人労働者が働いている。人口減少社会の中、移民が問題視されているが、現実はすでに動き出しているのだ。そんな時代だが、外国人コミュニティのディープなところまでは一般人は入り込めない。その最たるものが葬式と風俗なのだが、本書はその過去と現在を追っている。日本側の事情だけではなく、世界的な経済動向の変化の中で、常に在日外国人社会は揺れ動いているのだ。風俗の面だけとっても、フィリピンバーからタイ人クラブ、韓国デリヘルの隆盛といった具合だ。本書のオビには「驚愕の連続」とあるが、体験的になんとなくその流れが分かる人も多いのではないか(自分もその一人だが)。そんな日本の別の一面を垣間見ることができる本である。

初版2012/01 NHK出版/NHK出版新書

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書評<雪男は向こうからやって来た>

早稲田大学探検部出身で朝日新聞記者であった著者は、縁あってヒマラヤの雪男(イエティ)探索隊に誘われる。イエティの存在に懐疑的だった著者は、ヒマラヤでそれを目撃した日本の登山家たちを訪ね歩き、思いのほかはっきりとした目撃体験に出くわし、探索隊に加わることを決意する。果たして、イエティの存在を確証させる映像を記録することが出来るのか?本書は2008年のイエティ捜索隊を追ったノンフィクションである。

個人的にUMA(未確認生物)の類が大好きで、ヒマラヤのイエティがチベットの民間伝承の一つで、日本でいえば河童や天狗のようなものだということも知っている。だが、著者の取材により、高名な日本人登山家に何人もの目撃者がおり、そのどれもが思いのほか真実味があることが明らかになってくると、結論は分かっていてもワクワクしてくる、そんなノンフィクションだ。ヒマラヤでイエティを目撃したことにより、人生が変わり、命を落とした先人たちの存在が、懐疑的な著者=読者の心を揺り動かす。ややもすれば退屈な時間の積み重ねになりがちなイエティ発見のための監視の間に、過去から現在へのつながりをうまく挟み込むことによって一種の日本のイエティ探索の歴史書にもなっている。UMA好きには必読の書だ。

初版2011/08 集英社/ハードカバー

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書評<空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む>

チベットの奥地にツアンポー峡谷とよばれる世界最大の峡谷がある。ネパールと中国支配下のチベットという不安定な政治情勢、想像を絶する過酷な地形が、幾多の冒険家の最深部への到達を阻んでいた。19世紀末から幾多の冒険家たちが挑みながらいまだ残る未到達の「空白の五マイル」に、日本人探検家が単独行で挑む。それは想像以上に過酷な旅となった。

早稲田大学探検部出身、朝日新聞記者歴を持つ著者が描く冒険行。もちろん彼の過酷な旅の描写がメインとはなるが、ツアンポー渓谷へ挑んだ冒険家たちの歴史が巧みに挟み込まれ、うまくその渓谷の冒険の歴史をまとめている。独りよがりの冒険行にならず、背景にある政治や宗教も知ることができるバランスの取れたノンフィクションだ。
いみじくも著者が書くように、どんな辺鄙な土地でも、GoogleEarthで検索し画像を見ることができる時代だ。20世紀にも増して、もはや地球に辺境はないように思えるが、本書を読むとまだまだ世界には”秘境”が残されていると感じさせてくれる。どんなにカメラの技術が発達しようと上空からは決して見えないものがそこにはあるのだ。そして、どんな秘境といえど、過酷な自然と暮らす人間がいることが印象に残る。そんな多面的な印象を残す良書だ。

初版2010/11  集英社/ハードカバー

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