書評<空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む>
チベットの奥地にツアンポー峡谷とよばれる世界最大の峡谷がある。ネパールと中国支配下のチベットという不安定な政治情勢、想像を絶する過酷な地形が、幾多の冒険家の最深部への到達を阻んでいた。19世紀末から幾多の冒険家たちが挑みながらいまだ残る未到達の「空白の五マイル」に、日本人探検家が単独行で挑む。それは想像以上に過酷な旅となった。
早稲田大学探検部出身、朝日新聞記者歴を持つ著者が描く冒険行。もちろん彼の過酷な旅の描写がメインとはなるが、ツアンポー渓谷へ挑んだ冒険家たちの歴史が巧みに挟み込まれ、うまくその渓谷の冒険の歴史をまとめている。独りよがりの冒険行にならず、背景にある政治や宗教も知ることができるバランスの取れたノンフィクションだ。
いみじくも著者が書くように、どんな辺鄙な土地でも、GoogleEarthで検索し画像を見ることができる時代だ。20世紀にも増して、もはや地球に辺境はないように思えるが、本書を読むとまだまだ世界には”秘境”が残されていると感じさせてくれる。どんなにカメラの技術が発達しようと上空からは決して見えないものがそこにはあるのだ。そして、どんな秘境といえど、過酷な自然と暮らす人間がいることが印象に残る。そんな多面的な印象を残す良書だ。
初版2010/11 集英社/ハードカバー
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