書評<ナチを欺いた死体 - 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実>
第2次大戦のヨーロッパ戦線において、連合軍は本格的な反撃の端緒としてイタリアのシシリー島上陸作戦を企図していた。しかし、正面切っての着上陸作戦は危険だ。そこでイギリス海軍情報部は、本作戦の上陸地点を他の地点へと見せかける欺瞞工作を企図する。それは、スペインの海岸に偽の重要書類を所持した将校の死体を着岸させ、ナチスに上陸地点を誤解させるという奇妙な作戦だった。本作品は作戦を指揮した本人の秘蔵書類を元に、ミンスミートと名づけられた偽装工作の全貌を解き明かす。
戦史にはあまり詳しくないが、シシリー島上陸作戦に伴う偽装工作”ミンスミート”は有名な作戦のようだ。作戦を立案、指揮した人物が詳細をぼかして本にし、映画化もされているそうである。本書は作戦立案者が個人で秘蔵していた書類の発見により、作戦をより詳細に記述したノンフィクションとなる。「偽装した死体を流す」という単純な作戦のように見えるが、決してそうではない。いかにして将校に相応しい死体を手に入れ、偽の人生を構築し、死体を海岸に着岸させるか?またそれをナチスの総司令部、そしてヒトラーの手に偽の情報を確実に伝えるにはどうしたらよいか?それはときに、日本人からしたらふざけてるとしか思えない、ユーモアに溢れている。そしてそれは確実に史実なのである。
ブラックジョークが大好きで、回りくどいイギリス人紳士が立案した諜報作戦の一端を味わえる一冊である。
初版2011/11 中央公論新社/ハードカバー
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