« February 2012 | Main | April 2012 »

2012.03.23

書評<分裂するアメリカ>

イラク・アフガン戦争への対応、経済危機などを巡り、アメリカ国民の意見は二分され、格差は拡大した。その反動として生まれたのがオバマ政権といっていい。だが、医療保険制度の改革やオバマ大統領の外交姿勢によって、またもアメリカ国民はバラバラになりつつある。ティーパーティ運動の実相やヒスパニック移民の現在を追うことにより、オバマ大統領就任時から変容しつつあるアメリカ社会の実態を追う。

アメリカは移民の国であり、自由の国なのでもとより分裂している。それを扱った本はたくさんあるが、本書は「分裂した集団がまた分裂する、先鋭化する」という事象を取り上げたものである。”小さな政府”を標榜するリバタリアン全員がティーパーティ運動参加者というわけではないし、ティーパーティ的な組織が共和党支持者というわけではない。ようはスキームによってバラバラなのである。
「ヒスパニック」という言葉も同様に一括りでは使えない言葉である。もともとニューメキシコ近辺をアメリカが”併合”したときにヒスパニック系の人がいたわけで、それらの人々は近年の不法移民と一緒にされては困るというわけである。
こういうふうに、選挙対策に長けた共和党、民主党両方の政治家が困る事態が生じつつある、アメリカの複雑な政治状況を本書は解説していて、非常に興味深い。それだけに、ありがちなタイトルで損をしていると思う。
イギリスもそうだが、日本も目指した二大政党制なるものが崩れつつあるのが、先進国の民主主義なのかも知れない。

初版2012/02 幻冬舎/幻冬舎新書

2012.03.22

書評<MM9―invasion―>

ときおり怪獣が出没し、”M1~M9”までの災害として対処している、現代の日本に似たどこかの世界。
怪獣出現とその規模を予測する気象庁の<気特対>に所属し、学術アドバイザーを案野女史の息子である一騎は、頭の中で自分を呼ぶ声に気づき、ある少女と出会う。それは史上稀にみる大規模怪獣災害の発端だった。東京スカイツリーを舞台にした怪獣災害により、首都は壊滅するのか?MM9シリーズ、第2弾。

自衛隊と気象庁が力を合わせて怪獣と戦うMM9シリーズ、今回は幼馴染の高校生カップルを主役にすえた青春物語である。元ネタはウルトラマンセブンらしいが、特撮方面に詳しくないのでパロディとしての楽しみは味わえていないが、それでも充分に奇想天外なストーリーを味わえる。幼馴染の恋が入る分、前作と比べてラノベっぽい仕上がりだが、充分にSFである。

初版2011/07 東京創元社/ソフトカバー

2012.03.21

書評<ナチを欺いた死体 - 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実>

第2次大戦のヨーロッパ戦線において、連合軍は本格的な反撃の端緒としてイタリアのシシリー島上陸作戦を企図していた。しかし、正面切っての着上陸作戦は危険だ。そこでイギリス海軍情報部は、本作戦の上陸地点を他の地点へと見せかける欺瞞工作を企図する。それは、スペインの海岸に偽の重要書類を所持した将校の死体を着岸させ、ナチスに上陸地点を誤解させるという奇妙な作戦だった。本作品は作戦を指揮した本人の秘蔵書類を元に、ミンスミートと名づけられた偽装工作の全貌を解き明かす。

戦史にはあまり詳しくないが、シシリー島上陸作戦に伴う偽装工作”ミンスミート”は有名な作戦のようだ。作戦を立案、指揮した人物が詳細をぼかして本にし、映画化もされているそうである。本書は作戦立案者が個人で秘蔵していた書類の発見により、作戦をより詳細に記述したノンフィクションとなる。「偽装した死体を流す」という単純な作戦のように見えるが、決してそうではない。いかにして将校に相応しい死体を手に入れ、偽の人生を構築し、死体を海岸に着岸させるか?またそれをナチスの総司令部、そしてヒトラーの手に偽の情報を確実に伝えるにはどうしたらよいか?それはときに、日本人からしたらふざけてるとしか思えない、ユーモアに溢れている。そしてそれは確実に史実なのである。
ブラックジョークが大好きで、回りくどいイギリス人紳士が立案した諜報作戦の一端を味わえる一冊である。

初版2011/11 中央公論新社/ハードカバー 

2012.03.20

F-111F Day2nd

なんとなく春うららかな春分の日。そのぶん花粉の飛散も勢いを増してるので、おとなしくF-111Fの小物の塗装。
Rimg0110
ご覧のとおり、混沌としております。ウェポンセットから持ってきたGBU-10とGBU-24およびALQ-131を含めて、パーツも色数もマスキングの効率も考えてエアブラシ吹いたつもりなのですが、自分の立てた予定どおりには進まず。ターボファンのノズルも独特のものなので塗り分けながら組み立て、VG翼廻りのカバー裏面はレッド、ギアカバーの裏面はホワイトを吹きつけと、何かと手間がかかります。
おまけにノズルの間のフェアリングをクレオスのクロームシルバーで塗ったのですが、これがマスキングに弱い。吹き直しの連続です。
早く機体の加工に入りたいけど、何かと立て込んでいるので続きは4月かなあ。

2012.03.19

書評<サッカー選手の正しい売り方 移籍ビジネスで儲ける欧州のクラブ、儲けられない日本のクラブ>

欧州各国のリーグで日本人サッカー選手たちが活躍する昨今。日本人選手の評価が上がり、日本代表の強化に繋がる嬉しい事態なのだが、一方Jリーグ各クラブにとっては主力選手、スター選手が”抜かれる”ということである。そこで移籍金が取れれば今後の強化に繋がるわけだが、昨シーズンなどは0円移籍が横行した。こうした事態はなぜ起こり、それに対しJクラブはどう対処すべきなのか?本書は選手の代理人やクラブ社長のインタビューを中心にすえて解説していく。

当方、サンフレッチェ広島のサポーターであるが、生まれからして広島人で、ユース育ちの選手が移籍金0でドイツのチームに移籍したあげく、移籍先のチームで干され、別のJクラブにレンタルで日本に戻ってくるという経緯を見るにつけ、どうにも複雑な思いを抱かずにはいられない。サポーターからしてこうなのだから、育てた選手が抜かれていくユース関係者や、高校のときから目をかけてきた選手が抜かれるスカウト関係者の忸怩たる思いたるや、相当なものだろう。だがこれは、欧州移籍市場からローカルルールで守られてきたJクラブが規約改正により、世界標準と”戦わなければならない”時代になったことを意味する。”選手の夢をかなえる”とか甘えたことを言っている場合ではない。敵対しがちな代理人さえも利用していくタフさがクラブのフロントに必要になったのだ。幸いなことにボスマン判決からずいぶんと時間が経ち、欧州の中堅クラブの中には独自の”生きる道”を見つけたクラブもあるし、Jクラブにも移籍金をたっぷりと取った例も存在する。見本はしっかりとあるのだ。Jクラブフロントは、経営センスを磨き、なんとか戦い抜いてほしいものである。

初版2012/02 カンゼン/ソフトカバー

2012.03.18

書評<機龍警察 自爆条項>

小規模紛争やテロの増加により戦争が変容した時代に生み落とされた兵器、機甲兵装。人体の動きをスレーブしながらパワーとスピードを増し、都市戦闘に有用な機甲兵装は軍にとどまらず、テロリストとそれを取り締まる警察組織が使用するまでになっていた。警視庁特捜部は普及機に対し5年のアドバンテージを持つ機甲兵装を装備し広域に操作が可能な組織として発足したが、”傭兵”を雇用するなど警察の他部局からは忌み嫌われていた。
そんな組織的ゆがみを抱えながらも、機甲兵装の密輸事案を捜査する警視庁特捜部は、北アイルランドのテロ組織によるイギリス高官暗殺計画を察知した。奇しくもその組織は、”傭兵”の一人であるライザ・ラードナー警部が過去に属していた組織であった。複雑な政治事情とラードナー警部の凄惨な過去が交差しながら、捜査と物語はクライマックスに向かう。

部局同士の対立やキャリアの処遇といった警察という特殊な組織が抱えるリアルと、いわゆるパワード・スーツが闊歩するフィクションを組み合わせた警察小説の第2弾。パワードスーツの動力源や警察に民間軍事組織の人間が雇用されている理由といった、ミリオタには重要な事項はほぼスルーされており、あくまでアクションと捜査が人間が主役である。
本作は機甲兵装の密輸事案と、テロリストであったライザの過去を交互に描きながら物語をすすめていく。現在の時間軸においてははぐれ者の組織ゆえの不満と高揚、そして激しい戦闘が描かれ、過去の時間軸においては欧米の小説に負けないくらいの北アイルランドの暗い日常と非日常が描かれる。それが終盤に向かって交差する展開、そして伏線を回収する物語の組み立ては見事としかいえない。続編も期待である。

初版2011/09 早川書房/ハードカバー

2012.03.17

F-111F Day1st

最近はなんかホーネット含めてアメリカ海軍機しか作ってないので、久々にアメリカ空軍機、いきましょう。
Rimg0108
ハセガワ1/72F-111Fアードバークのリタイア記念機です。SHS2012はコイツとF-15Eを並べてやろうと思います。
このキット、重大な間違いがありまして、F-11Gを名乗りアエロマスターのデカールが付属するコラボキットなのですが、デカールが再現するリタイア記念機はF-111F(AF-74-0187)でして、ロングスパンのF-111Gじゃないんですな。なのでヤフオクで安く落としたデカールがダメになってるF-111Fと組み合わせます。
F-111Gのキットには機種上面のGPS受信機がモールドされているパーツが入っているので、それだけはありがたく流用します。
では、コクピットとエアインティークを先に塗装して、サクサクっと胴体まで組みます。
Rimg0107
バブル期に発売され、モデルグラフィックス誌で”ハセガワの爛熟”とまでいわれたF-111のキットですが、最近のクドい中華製キットを比べるとモールドもスタンダードなもの。パーツの合いも仮組みしながら組めば、コクピット含めた前部胴体がやや窮屈なぐらいで、パテのたぐいは最小限ですみます。
塗装まではサクサクっといきたいですね。

2012.03.04

EA-18G Completed

ハセガワ1/72ボーイングEA-18Gグロウラー、完成しました。
Dsc_0007_01
EA-18GグロウラーはEA-6Bプラウラーの後継となるべく開発された艦載電子戦機です。F/A-18Fを原型にし、EA-6B(ICAPⅢ)に装備されていたレーダー・無線の送受信ユニットとそれに付随する妨害装置を搭載しています。機体各所に追加されたフェアリングと、それによって生じた気流の変化を補正するための主翼のストレーキなど、若干の外形的変化が特徴です。
Dsc_0012
ハセガワのキットは昨年発売された新商品で、それをまったくのストレートで組んでます。エアインティーク内部と前後胴体の継ぎ目、バルカン砲口をふさぐときに若干のパテが必要ですが、後はあっさりと組めます。注意点は主翼のストレーキはじめ各所のフェアリング・アンテナなど追加で穴を開ける箇所が多いので、それを忘れないようにするぐらいでしょうか。
Dsc_0018
塗装はごくノーマルのカウンターシェイドで、付属デカールのVAQ-132"SCORPIONS"をチョイス。デカールは固めでシルバリングしやすいので、デカールソフターを多用しています。それでも浮き気味で、半ツヤクリアーコートでなんとかごまかせるところに落ち着きました。まだ新しい機体なのでウェザリングは最低限にし、ブラックテイルもスーパークリアーでコートしてツヤの差を強調しています。
Dsc_0027
今回のグロウラー、発売直後に手をつけた後、2012年の早い時期に厚木へVAQ-141配備のニュースを聞いて中断。ハセガワ得意の限定品発売を待ってデカールを抜き取り、SHS2012にCVW-5のライノ部隊勢ぞろいを目論んでいたのですが、どうやら限定品が5月までには発売されることはなさそうなので塗装に取りかかり、完成させました。どちらにしろ、空母搭載航空団で唯一のライノで統一された戦闘攻撃飛行隊のラインナップをずらりと並べたいものです。
Dsc_0015
実はライノの製作で一番苦手なのは機首のIFFアンテナをカバーしたボックスの加工。うまいこと面が出せないんですな。今回も妥協しております。基本技術の精進がまだまだ必要さを感じる製作でした。

2012.03.03

書評<南極点のピアピア動画>

日本の次期月探査計画に関わっていた大学院生・蓮見省一は落ち込んでいた。月へ衝突した彗星が撒き散らしたデブリが計画を潰し、その直後に恋人も去った。失意の蓮見のために、ユーザー生成動画サイト<ピアピア動画>に関わる技術者たちが、蓮見を宇宙に送り出すプロジェクトを立ち上げる。そして蓮見はボーカロイドに恋人へのメッセージをこめて、ピアピア動画にアップする。果たして、プロジェクトは成功するのか?
本書は動画サイトとボーカロイドが人と人をつなぎ、技術を紡ぎ出し、果ては未知との遭遇を促す短編SF集である。

ニコニコ動画と初音ミクが描き出す、少しだけSFで、心温まるエピソードを収めた短編集。はじめの2編を読んだ時点ではこんな印象だったが、ボーカロイドソフトでクジラと交流するプロジェクトあたりから、にわかに物語が本格SFに加速していく、最初の印象を見事に覆してくれる作品である。主要な登場人物ほぼすべてが”こちら側の人たち”であり、ネットが”才能の無駄遣い”を結びつけ、楽観的な未来を描く物語は、ネットへの依存度が高ければ高いほどリアルに感じられるだろう。宇宙関連SFを書く知識を持ち、本格的な潜水艦戦SLGをこなし、なおかつボーカロイドのPである著者でしか書けない、心温まる”少しだけ未来”の物語である。

初版2012/02 早川書房/ハヤカワ文庫JA

« February 2012 | Main | April 2012 »

My Photo
August 2022
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

Twitter


無料ブログはココログ