書評<原発大国フランスからの警告>
EUの中でも、電力の75%を原子力で賄う”原発大国”であるフランス。フランスはなぜ原発をエネルギー政策の中心に選び、福島第一原発の事故を経てもなお原発に対する政策を見直そうとしないのか?原子力災害に対する体制はどうなっているのか?フランス在住のジャーナリストである著者が、フランスの原子力政策の実態を紹介していく。
正直な読後感を記せば、あまりスッキリしないものだった。著者は日本政府のリーダーシップの欠如と、”重大事故の可能性ゼロ”を前提とした災害対策をフランスと日本の違いとして指摘し、両者の違いを見出そうとしているが、原子力に対する基本的なスタンスと原発を巡る現実はよく似ているのだ。第一は石油危機を経て”エネルギーの安全保障”として原発を選び、原発建設を推し進めたこと。このことを国の独立と結びつけて、原子力政策を”聖域”にしているのだ。第二に原子力産業界が政治と密着していること。例えばMOX燃料(使用済み核燃料からプロトニウムを取り出し、再処理した燃料)の生産を一手に引き受けるアレバという企業がある。アレバの圧力により、緑の党と社会党という左派の選挙協力に関する宣言から、あったはずの「MOX産業の停止」なる文章が削除されたという。これなどは日本のいわゆる”原子力村”よりひどい例なのではなかろうか。本書のオビに「日本の原子力論議に冷水を浴びせる報告」とあるが、自分などはむしろフランスと日本の原子力政策の類似点ばかりが目に付く。まあ、「欧州を見習え」という左派の方に冷水を浴びせてるのかもしれないが。
ミリオタには兵器輸出の面でフランスの死の商人ぶりは有名だが、フランスの原子力業界もとことんまで現実主義者たちの集まりのようだ。
初版2012/04 ワニブックス/新書
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