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書評<火星ダーク・バラード>

人類が火星に入植して幾世代も経過し、大都市を複数築いている未来。火星治安管理局の刑事である水島は、相棒の神月とともに凶悪犯を護送中に超常的な事態に遭遇し、意識を取り戻したときには、凶悪犯は逃亡、神月は殺害されていた。管理局上部に神月殺害の疑いをかけられたうえ、捜査を禁じられた彼は単独捜査を始めるが、様々な妨害を受けた上、命を狙われる。そしてたどり着いたのは「超共感性」という特殊能力を持つ少女との出会いだった。事件の闇に潜むものは何なのか?水島の孤独な捜査は最終局面を迎える。

本書を一言で表現すれば、フィリップ・マーロウ以来、連綿と続く「ハードボイルド」である。過酷な過去を抱え孤独に震えながら、命の危機にさらされるようなトラブルに陥ってもなお自らに課した”ルール”を守ろうとする男。そんな男が敵だらけの世界で、少数の見方とともに、絶望的な捜査を続ける。
その”ルール”に主人公はある意味苦しむわけだが、そこにSF的な要素がほどよく絡む。ユートピアになるべき火星の植民都市が、あっという間に”ミニチュアの地球”になってしまう現実。その火星都市の裏に潜む大きな権力と禁じられたテクノロジー。そんな状況にさらされても、彼は自らの矜持は失わない。そして、テクノロジーによって生まれた特殊能力を持つゆえに、自由を失ったと思い込んでいる少女に彼は言う。「自由に、自らの選択に従え」と。ただの中年男である自らは”ルール”に縛られているのに、少女にはその出自と能力に縛られるなと叫ぶ様は、もう痺れるほどカッコ良く、ハードボイルドと表現する以外にないのである。
SF作品として、センス・オブ・ワンダーと現実世界の物語が抜群にバランスよく融合した、良質なフィクションだ。

初版2008/10 角川春樹事務所/ハルキ文庫

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