書評<空飛ぶ広報室>
業務とはまったく関係ない事故でパイロット資格を失った空自パイロット・空井大祐は、防衛省本省の広報室に配属される。常に”一般人”と触れることとなる新たな部署で、個性的な面々と新たな仕事と向き合うことになる。マスコミでさえ”軍隊”に対する知識が極端に薄い(それどころか反感さえ持つ)日本で、自衛隊の広報とはどんな仕事で、どんな苦労を背負うことになるのか。お堅い女性テレビディレクターとの不器用な交流を中心に、物語は進んでいく。
著者のライフワークである自衛隊を扱ったフィクションの最新作。パイロット資格を失い、まったく畑違いの部署に配属された主人公の心の回復と成長をとおして、自衛隊広報の仕事がどんなものかを知ることができる。マスコミや芸能界との関わりをとおして、いかに自衛隊の存在と役割をアピールできるか?国防というものの理解が低い日本で、それに取り組む人たちの前向きの姿勢が心を打つ。
企画の売り込み、自分の組織内の部署の調整、そして現場での仕事と、仕事の内容と手順自体は多くの会社での仕事と変わらない。自衛隊の組織の中でそんな当たり前の手順が踏まれていること自体が、逆に新鮮だったりする。マスコミが”軍隊”に偏見を抱いているように、自衛隊内部にも”たかがテレビ”と考える人がいるのだ。そこで能動的に仕事をしようとすれば、ときに部署間で衝突も生まれる。そこをいかに調整していくか?個性的な登場人物たちがそれぞれに解決しようとしていくので、読んでいても飽きない。
Amazonのレビューを見ると、本書を「自衛隊のプロパガンダ」とする評価があった。ちょっとだけ甘い恋愛要素も盛り込んだフツーのお仕事の小説が、プロパガンダ認定されるとは、自衛隊広報の仕事はまだまだ終わらない。
初版2011/07 幻冬舎/ハードカバー
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