書評<気象を操作したいと願った人間の歴史>
気象は人類にもっとも影響を与える事象であり、いつの時代でも人類は気象に振り回されてきた。それゆえ、農業を営み、原初の文明を発展させ始める頃から現在に至るまで、人類は気象を操作したいと願ってきた。その手段が呪術や神事から科学技術にとって代わろうと、その根本にある考えは基本的に変わらない。本書は古代から現代に至るまで、気象を操作したいと願い、失敗してきた歴史を辿る。
地球温暖化が叫ばれる昨今、地球規模で気象をコントロールしようというアイデアがいくつも提案されている。このような”気象が操作できる”と謳った人間は、過去に限りないほどいるが、いずれも失敗した。特に19世紀以降、科学技術が発達し、もっともらしい理論をぶち上げ、気象操作を金儲けや国家の防衛・攻撃手段に使うことができるとする科学者が幾人も現れ、歴史の仇花となっていった。今となっては詐欺師同然と思われる輩も多いが、科学者が気象を操作できると確信したのは事実であろう。疑似科学と科学の違いを明確にした著名な人物すら、その罠に引っかかった。それほどに、気象操作は研究対象として魅力的なのであろう。
本書はこうした”失敗の歴史”を積み重ねることによって、現在の”地球工学エンジニア”たちに警鐘を鳴らす。現代のスーパーコンピュータがどんなに発展しようと、気象というのは予測がつかない。今まさに我々自身が体験していることである。科学の発展に限界はないとは自分も思うが、うぬぼれと自信はキチンと区別しなければならない。
本書は歴史書であり、同じような事例を延々と並べている箇所もあるため、決して読みやすい本とはいえない。しかし、科学の限界と傲慢を学には最適の書といえる。
初版2012/06 紀伊國屋書店/ハードカバー
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