書評<のりもの進化論>
2012年現在、日本の交通の主役が自動車であることに異論がある人は少ないだろう。しかし、エネルギー資源や地球温暖化の観点から、人間の移動手段の再考がせまられている。自転車がかつてないほど見直され、それに類似するモビリティが次々と提案されているし、公共交通機関としては路面電車の復活が見られるのもそうした動きの一環だろう。本書はそうした状況において新たなモビリティを実際に試し、その有用性を検証する。
最初に感じるのは、本書は都市、もっといえば東京を基本とした都市内モビリティを検証したものであるということだ。自転車というのりものの検証をきっかけに、リカベントなど様々なモビリティが提案されているが、あくまで天候・道路状態といった外部条件が四季をとおしてある程度一定であり、移動範囲もそれなりであることが前提だ。それがあてはまる都市は、実はなかなかないのではないかと、地方在住者は思う。自転車やそれに類する人力のモビリティが見直されるのはいいことだと思うが、高齢化していく社会でそれがどこまで現実的かは、よく考える必要がある。それに、衝突事故のことを考えるのも重要だ。
むしろ本書でうなづけるのは、世界の中で日本の”ママチャリ”という存在の異質さと、警察の場当たり的な行政の限界である。極端な話、ほぼ”使い捨て”の一万円自転車の存在が交通行政のネックになっているともいえるのである。
首都圏在住者でないと、なかなか実感をもって読むことができない本書ではあるが、都市設計と交通手段というものを考えるきっかけとなることは間違いない。
初版2012/08 太田出版/ソフトカバー
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