書評<シークレット・ウォーズ>
シャーの王政が倒れ、イスラム革命が成って以後、アヤトラ・ホメイニ率いるイランはイスラム革命を全イスラム世界に波及させるため、イスラエルと西側世界にテロをしかけ、レバノンとシリアのテロ組織を支援し、大量破壊兵器の調達を図ってきた。それに対し、イスラエルのモサドを中心とする諜報機関は強硬な手段を厭わず対抗してきた。本書は中東で繰り広げられてきた30年に及ぶ諜報戦の貴重なレポートである。
海外でも話題となった秘密諜報戦のレポートの翻訳本である。”この本の秘密情報には30億円の価値がある!!”などと、 たいそうなオビがついているが、まさにイランとイスラエルの暗闘の全貌が明らかにされるといっていい。
感想を一言で言えば、子ブッシュ大統領がイランを”悪の枢軸”と表現したのも納得である。イラン・イラク戦争、湾岸戦争、9.11同時多発テロといった大きな出来事とは別に、これほどの”戦争”が行われていたとは驚愕する。PLOはじめ一見、背後にはアラブがいると思われる組織にしても、本来は宗派が違うイランの大きな支援を受けている。ヒズボラなんてのは、イランの革命防衛隊のフロント組織であり、まさにいまガザで行われようとしているイスラエルとヒズボラの武力衝突も、背後にはイランがいるのだろう。
本書はモサドはじめとする諜報機関に対する批判も鋭い。組織間の対立により廻らない情報、防げなかったテロ。有名なFBIとCIAの対立のような構図は、準戦時国のイスラエルにあっても変わらないのだ。
ただ、あまりにイランが悪役過ぎて、カウンターパートとなる本が読みたくなるのは、あくまで自分が平和な国の人間だからか。とにかく、イラン側から見た諜報戦もまた知りたいものである。
初版2012/10 並木書房/ソフトカバー
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