書評<アフガン侵攻1979-89: ソ連の軍事介入と撤退>
本書は主として、ソ連側から見たアフガン侵攻を見事に描き出した歴史書である。ソ連特有の複雑な政府組織が影響をおよぼした侵攻の経緯、ムジャヒディンとの戦闘の実相、あまり語られることのない撤退の経緯などが、アフガン戦争に関わった無数の人々への聞き取りを通して描かれる、骨太の歴史書だ。
侵攻作戦の全体像はもとより、アフガン侵攻に関わった無数の人々たちの実際を見事に描き出したのが本書である。戦闘そのものの取り扱いは思ったよりも少なく、ソ連中枢に侵攻を決意させたアフガニスタン政府の内部分裂や、ソ連の各組織の男女がどのような価値観のもと、どのように行動したかが詳しく描かれる。大局的な見地からの描写よりも、様々な立場の人間の行動を中心に描かれるので、アフガン侵攻の実相をより知ることが出来る。この種の書としては、必要以上に難解な文章でないのも好感触だ。
個人的には、ソ連の侵攻という”悪行”よりも、部族、宗教、権力、富を争って分裂するアフガニスタン国民の方が印象に残る。9.11以後の対テロ戦争もそうだが、強大な軍事力を持つ大国が悪役として描かれることが多いと思うが、とにもかくにも対立し裏切りを繰り返すアフガニスタン各民族が”平穏を希求している”とは、とてもじゃないが思えないのだ。アフリカと同じく”国民国家”という概念が通じない地域をどうやってコントロールするか、そろそろ本気で考えないといけないと感じる。貧困を解決するとか、そんな単純な問題ではないのだ。
初版2013/01 白水社/ハードカバー
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