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書評<クルマはかくして作られる 4 レクサスLFAの設計と生産>

自動車の生産は、様々な分野の工業にまたがる裾野の広い”総合工業”であり、各パーツや工作機械まで含めてまさに日本の屋台骨を支える産業だ。著者の<クルマはかくして作られる>はそうした底辺の広い自動車の様々なパーツの生産現場と技術を取材し、詳細な写真と解説をまとめたシリーズであるが、本書はトヨタの500台限定スポーツカーである<レクサスLFA>の生産現場に特化したシリーズ最新作である。

500台限定のせいか、地方在住のせいか、公道を走っているとこをまだ見たことのないレクサスLFA。国産車なのにフェラーリ458あたりよりレアなクルマのあらゆるパーツの生産現場を取材し、詳細な写真と解説で丸裸にしていく。シリーズ前作も、その職人魂に驚嘆するしかない自動車産業の現場を知ることが出来たが、本書は最新技術のカタマリであるトヨタの”スーパーカー”の生産工程を追っているため、まさに自動車産業の最先端を知ることができる。まだ乗用車では使われていないCFRPコンポジットによるシャシー製作しかり、強靭なエンジンを支える最新の合金技術しかり。そのこだわりには凄みさえ感じさせる。自動車産業そのものの行き先に対する疑問、あるいはトヨタという会社の姿勢とスポーツカーとの関係に複雑な思いを抱く方もおられるかも知れないが、そんな思いを吹き飛ばし、日本の持つ最新技術を再確認させてくれる”解説書”である。

初版2013/03 二玄社/大型ムック

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書評<甘城ブリリアントパーク1>

傲慢不遜なナルシスト高校生、可児江西也は美少女転校生・千斗いすずが、を放課後の教室でデートに誘われた。マスケット銃で脅されながら、だが。連れて行かれた先は潰れかけのアミューズメント・パーク<甘城ブリリアント・パーク>。しかもそこの、支配人になってくれというのだ。この寂れた遊園地に何があるというのか?新たにはじまる、ファンタジーな物語。

ラノベ界有数のヒット作である「フルメタル・パニック」の著者の期待の次作は、意外なことにミリタリー系の作品ではなく、魔法も登場するファンタジー。しかも舞台は潰れかけの遊園地。どんな作品になるかと思ったが、ちゃんと楽しめるエンターテイメントであった。「中の人などいない」という、着ぐるみマスコットのキャラクター性を逆手にとって笑いをとりながら、アミューズメント業界ネタも盛り込む。もちろん、チラッとミリオタが喜ぶ小ネタも忘れない。サービス精神溢れる物語は、さすがの出来。シリーズに期待である。

初版2012/03 富士見書房/富士見ファンタジア文庫

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書評<水の迷宮 (クラッシャージョウ11)>

長く内戦状態にある水惑星マルガラス。一方でマルガラスには地球外生命体の先史文明の痕跡が残されているため、銀河連合の介入により中立地帯が設けられ、先史文明の調査チームが派遣されていた。クラッシャー・ジョウのチームは調査チームの護衛として海底遺跡調査船に乗り組んでいたが、そこでいるはずのないGMO(遺伝子改変)された傭兵であるアプサラに出会うとともに、前代未聞のトラブルに巻き込まれる。

<クラッシャー・ジョウ>シリーズ、8年ぶりの新作。これだけ長続きしているレベルのスペースオペラとなると、もう主役はジョウではなく、ゲストキャラである傭兵アプサラと先史文明。彼女と先史文明のコンタクトが主題であり、彼女の冒険物語である。”意識”の移設と融合といった最近のSF必須の要素も取り入れているが、その理屈への言及は少なく、真骨頂はやはりアクションだ。オールド・ファンとしては、もう少しチーム・メンバーの活躍が読みたいところである。

初版2013/02 早川書房/ハヤカワ文庫JA

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書評<フルメタル・パニック! アナザー5>

主人公・達哉が所属する民間軍事会社D.O.M.Sの社長のマオがテロで倒れた。D.O.M.SはCEOが代わり、組織が変質していく。そしてある作戦を機に、達哉はD.O.M.Sを抜けることを達哉は決意する。しかし、日本に帰国した達哉は、その日常に違和感を覚える。そして達哉が下した決断は・・・。

フルメタル・パニック外伝は第5巻にして転機。あとがきによると、やはりアグレッサー部隊では物語を形作るので難しかったようで、ようやく物語が動き出す感じだ。
これもあとがきからだが、アグレッサー部隊で物語を書く難しさに、懐かしのコンバット・コミック連載の「レッズ・イン・ブルー」が参考に上げられていた。つくづくも、同世代の書き手が増えてきたと思うところである。


初版2013/02 富士見書房/富士見ファンタジア文庫

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書評<盤上の夜>

世界には数々の盤上のこまを動かすゲームがある。そこには様々な人々の人生や価値観が凝縮される。碁、将棋、麻雀などの盤上のゲームをモチーフに、少しだけSFの要素を加えた、不思議な物語のオムニバス。

創元日本のSF分野に収まってはいるが、SFの要素、なかでもテクノロジーはほんの少ししか物語のキーにならない。キーとなるのは人間とゲームの関わりであり、ゲームが果たす役割も、それぞれの物語の中で大小様々だ。まったくバラバラの物語のオムニバスでありながら、不思議とそれに統一感があるのは、ゲームのもたらす”癒し”のせいであろう。本書の主人公たちは過酷な人生でありながら、ゲームにより、ある種の”救い”を受ける。それは例えば感動を呼ぶ種類のものではないが、それでも物語を読んだ後、何か喉の奥がスッとする感じを受ける。そんな不思議な感動のSFオムニバスだ。


初版2012/03 東京創元社/創元日本SF叢書

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書評<謎の独立国家ソマリランド>

混迷するアフリカ各国の中でも、ほぼ無政府状態に近いとされる修羅の国、ソマリア。そんな中で、ソマリアの北部地域であるソマリランドは独立を宣言、注目すべきことに各武装勢力から銃火器を没収することに成功し、治安が守られているという。あまりに治安が悪いためにジャーナリストもなかな入国できず、その実態が伝わることが少ないソマリアの情勢を、著者は単身突入、長期滞在することによってレポートする。

コンゴに「恐竜ムベンベ」を追って旅してから以後、世界の辺境に潜入し、独自の視点で実態をレポートする著者の最新作。映画「ブラックホーク・ダウン」の印象があまりに強く、さらに近年は近海で海賊行為が横行することにより、”治安”という言葉とは程遠いと思われがちな国であるソマリア。しかし、その中でも地域によってはとりあえずの平和が保たれている地域がソマリランドだ。著者はそこに深く潜入することにより、その平穏の秘密を看破する。それは”氏族主義”という考え方だ。応仁の乱以来の日本の戦国主義にも似たその主義と、それによって支えられる社会を、著者は”平氏と源氏”や”藤原氏”に例え、ソマリア人気質ともに、分かり易く説明する。そしてソマリアの他地域、海賊行為の主役となるプントランド、国際社会の”認証政権”が置かれるソマリアの首都、モガディショにも潜入し、その実態を明らかにしていく。
本書のいいところは、ソマリランドの”平穏”に幻想を抱かず、ソマリランドの人たちの実際もキチンと書いていることだ。アフリカの国々の中でも嫌われ者で、カートと呼ばれる日本なら脱法ドラッグに認定されそうな葉っぱに溺れる。そこに入り込んだ上で書かれるソマリランドの現状はリアルだ。
さきの「アフガン侵攻」の書評でも書いたが、西欧型の民主主義ではとても平和を形作れない、そんな地域があうことをそろそろ国際社会は認めるべきではないか、とまた感じた本書であった。


初版2013/02 本の雑誌社/ハードカバー

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映画「ゼロ・ダーク・サーティ」を見てきた

9.11同時多発テロの首謀者であるビン・ラディン殺害作戦の”真実”にせまったとされる映画「ゼロ・ダーク・サーティ」を見てきました。以下、ネタバレありで感想を。

自分も、COMBAT MAGAZINEに掲載されていた、4つ目のナイトビジョンを装着したSEALS隊員のグラビアのインパクトに負けて映画館に足を運んだクチですが、実際には徹頭徹尾、CIAのビン・ラディン捜索作戦を描いた映画です。
映画全体の印象は”フラット”であること。CIAの女性アナリストを主人公に据えていますが、ヒロイン然としているわけではない。彼女は同僚の爆死をきっかけに、上司にすら強烈なプレッシャーをかける執念の追跡を続行するわけですが、彼女に感情移入させるような意図的なカットはさほどありません。それに彼女は確かに優秀ですが、拷問、買収、電子的諜報手段などで得た情報を繋ぎ合わせるアナリストに過ぎないのです。彼女の所属するCIAという組織も、その諜報能力を過剰に強調するわけでもなく、腰の重い官僚的組織であることをことさら批判するわけでもない。映画らしいカタルシスを感じさせる”演出”が非常に抑えられていながらも、152分という長い上映時間を退屈させず緊張感を保つ、不思議なバランスの映画です。
それはビン・ラディン追跡の最終章である”オペレーション・ネプチューン・スピア”、ビン・ラディンの邸宅突入の場面も同じ。SEALSの隊員は唯一、ステレオタイプな人物に描かれていますが、作戦はことさらスピーディに進むわけでもなく、完全な秘密作戦でもなかった”真実”が描かれています。
そういう意味で、アカデミー各賞にノミネートされていながら獲得なしなのも納得できます。例えば、問題になった拷問に関しても残酷な描写がありますが、彼女がビン・ラディンにせまるきっかけとなる情報を獲った手段でもあるわけで、否定的でもあり肯定的でもある。政治的な立ち位置がはっきりしないため、扱いが難しいのでしょう。
いろいろ書き連ねてきましたが、見る価値のある、退屈しない映画であることは確かです。良質なドキュメンタリーを見た後に感じる感情と似てる気がします。

最後に個人的に気になることを2点ほど。CIA長官だけやたら乱暴な言葉の日本語字幕がついているのですが、粗野な喋りで有名な人だったのでしょうか?それと、墜落した例のステルス・ヘリを爆破しようとSEAL隊員が機体によじ登ったあげく、ヘリの外板を足でぶち抜いてコケるシーンがあるのですが、ステルス・ヘリが本格的な特殊部隊専用機ではなく、一時的にステルス性能を保持するためにでっち上げたハリボテに近い機体であることを示唆しようとしているのでしょうか?なんかこういう感じで、いろいろと伏線が隠されている気もする映画です。

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