書評<シェールガス革命とは何か>
東日本大震災に伴う福島第一原発の事故以来、日本国内で使用するエネルギーをどうするかという論争が激しくなっている。だが世界では、2011年以前から、エネルギー革命ともいえる変化が起きている。それがシェールガスの生産量の飛躍的な増加だ。頁岩(シェール)に含まれるガスを抽出するテクノロジーが進歩したことにより、従来の天然ガス・石油が産出する油井とはまったく違った地域で、可燃ガスが産出されるようになった。現在のところ、その恩恵を受けているのはアメリカだが、世界の大国のエネルギー消費の変化は単に石油・天然ガスの価格変動ではなく、中東への関与を含めた世界情勢に大きな変化を与える。ゆえに革命と呼ばれるシェールガスとはどんなもので、どうやって産出され、どういった性質を持つのか?本書はその影響を解説する。
日本で不毛な原発論争が繰り広げられている裏で、世界では大きなエネルギーシフトが起きようとしている。それがシェールガス革命だ。ガスの算出方法や埋蔵資源量の計算はやや分かりにくいが、本書はその革命を分かり易く解説している。
本書によると、シェールガス革命のキモは「シェールガス革命の産出による従来型天然ガスの価格下落」である。日本は火山国であり、地質年代が比較的新しい国土でシェールガスの開発は見込めない。だからシェールガス開発の恩恵に浴することができない、のではなく、従来型天然ガスの価格下落により、日本でもエネルギーシフトが可能なのである。先日行われた日露首脳会談でプーチン大統領がわりと友好的であったのも、シェールガス革命と無関係ではない。ロシアはヨーロッパ以外の新たなガスの供給先を探しているのだ。
大規模ガスパイプラインをインフラとしてほとんど持たない日本でエネルギーシフトを行うのは容易なことではない。しかし、原子力に必要以上に頼らない体制を将来的に築くなら、政府の施策として本気で取り組まなければならない。しかも時間は少ないのだ。
もちろん、シェールガス革命はエネルギーの問題だけにとどまらない。アメリカが中東の石油と天然ガスに頼る量を必要最低限とするならば、政治的関与も少なくなる。近年の”中東の春”に対するアメリカの関与の少なさは、すでに政策の変化を感じさせるものである。
ちなみに、ガスのCO2排出量は石油の半分なんだそう。産出地域の環境破壊など問題はあるが、世界は確実に革命の方向へと動いていると感じる。
初版2012/08 東洋経済新報社/ソフトカバー
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