書評<富士学校まめたん研究分室>
主人公は他国のエージェントに狙われるほどの工学系エンジニアにして、コミュニケーション障害気味のアラサー女性。ひと言で言うと、メンドクサイ女子。彼女が自衛隊の技術研究本部に配属されたところから物語は始まる。パワハラとセクハラを原因に”隔離部屋”に配属された彼女は、いわば復讐としてネットワーク・ロボットの概念設計を始める。単なる思考実験のはずの”プロジェクト”が、一人の男性の登場によって、実際の兵器開発に結びついていく。
物語の根本にあるのは、”白馬に乗った王子”の登場にとまどう女性の物語。だが、本書をミリオタ男である自分に読ませるものにしているのは、開発プロジェクトの進め方の描写と、やけにリアルな近未来の国際情勢が絡まるからだ。開発プロジェクトのマネージメントは官僚組織との戦いと、チーム内の人間関係を描き、アジア情勢は溶けていく挑戦半島情勢を描く。その3つがうまく絡まることによって、ラノベ風味だが、さりとてNCW(ネットワーク中心の戦い)の時代をリアルに描写する、絶妙なバランスの物語に仕上がっている。タイトルから想像するよりもずっとリアルで、ミステリー感がある作品なので、それだけは一考の感があるが、手にとって損のない作品であることは間違いない。
2013/10 早川書房/ハヤカワ文庫JA
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