書評<「レアメタル」の太平洋戦争: なぜ日本は金属を戦力化できなかったのか>
国家が保有する武力そのものだけでなく、工業力や人口など、大きな意味で総力戦であった第2次世界大戦。日本もその総力戦に臨んだわけだが、そもそも資源をもたない我が国は開戦時点で圧倒的に不利な状況であった。本書は、主に工業面から、日本の敗戦の原因を探っていく。
タイトルには「レアメタル」と謳ってあるが、実際には銅や鉄鋼などの「ベースメタル」も含めた、いわば”金属産業の太平洋戦争”を探っていく解説書である。
太平洋戦争開戦の直接のきっかけの一つはアメリカの石油禁輸だ。その禁輸措置に対抗するためには人口石油の生産が必要であり、人口石油の生産のためには膨大な鉄鋼を必要とした。その鉄鋼生産能力はどうあっても日本には不可能であり、石油資源確保のために、南方進出を進出せざるを得なかった。
戦争で大量に消費する弾薬の薬莢に使用する銅もまた、日本には経戦能力を維持する量を産出、精錬できなかった。様々な代用品を試みたが、どれも決定打にならない。これもまた、南方進出の要因となる。
このように、とにかく「なんで、こんな国力のままで戦争始めたの?」という例のオンパレードである。だが、それも後知恵だ。ときの内閣、軍政府は現実を受け止め、対抗策を取ろうとしていた。だが、アメリカおよびヨーロッパの資源確保への深謀遠慮は底知れなかった、ということだろう。本書を読んで、当時の軍や内閣の見通しの甘さを批判するのも結構だが、なぜそのような侮りが生まれたのか?中共がなりふりかまわず資源確保に走る今、考え直すにはいいキッカケになる本である。
初版2013/07 学研パブリッシング/ソフトカバー
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