書評<この空のまもり>
強化仮想現実の実現により、世界のあらゆる場所に電子タグが貼り付けられるようになった近未来。日本は少子高齢化と政治の怠慢により産業と行政が破綻しかけており、移民とそれを排斥しようとする過激派の対立が先鋭化しようとしていた。
そんななか、近隣諸国からの罵詈雑言が溢れる日本の空の電子タグを一掃するため、ネット民が架空政府と架空軍を立ち上げた。架空軍のリーダーはニートの田中翼。良識的なネット民の集まりだったはずの架空政府は、やがてリアルの世界へ影響を与え始める・・・。
幼馴染や架空現実眼鏡など、本書に登場するガジェット自体はいわゆるライトノベルに頻出するキーワードである。だが、本書はそうしたありふれたガジェットを使いながら、少子高齢化の日本が行き着く先、ネットウヨクと称される人たちの行き着く先を考えさせてくれるノベルだ。現在、日本でもヘイトスピーチが問題になりつつあるが、それが拡大していく社会を描く。”ニートでいながら、ネット世界のカリスマ”という、ネット社会で存在しそうで存在しない、そんなキャラクターを主人公にして、現実とネットを読者に行き来させる手法は巧みだ。
著者には、ライトノベルの枠に収まらない作品を、今後もハヤカワで執筆して欲しいものである。
初版2012/10 早川書房/ハヤカワ文庫JA
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