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2014.01.15

書評<にわかには信じられない遺伝子の不思議な物語>

地球上の生物のセントラル・ドグマをつかさどる遺伝子すなわちDNAは、比較的単純な物質でありながら全体として複雑怪奇な構造をしている。さらに生物にとって最重要な存在でありながら、極めて不安定で、常に情報の伝達ミスと隣り合わせになる。そうしたDNAの特徴ゆえ、ときに遺伝子は信じられないような不思議な事態を引き起こす。本書はそうした遺伝子にまつわる興味深いエピソードをその発見から、最新の知見まで紹介していく。

本書は難解な分子生物学を取り扱うタイプの本ではない。科学的な説明は必要最低限にとどめ、DNAに関わる物語を紡ぐことを優先し、それに成功している。19世紀以後の科学の発展の中で、個性的な科学者たちが、いかに単純で複雑なその塩基の姿を探っていったのか?やがて分子生物学が発展し、ヒトゲノムのすべての解読が成功するが、そのインパクトは科学者たちが思うより小さかった。塩基配列が明らかになり、生物の構造全てが読み解けるどころか、表向きは何の役割も果たさないと考えられるジャンク遺伝子が大半であり、遺伝の仕組みがますます複雑怪奇なことが明らかになるだけだったのである。
本書はさらに遺伝子学の最新トピックであるエピゲノム遺伝子にも触れる。生物が生存中に獲得した形質が、遺伝子を通して子孫に受け継がれるというエピゲノム機能の発見は、はるか昔に捨てられたラマルクの説を復活させることになった。
先に述べたように、本書は科学書としては文学的だ。だがそれゆえ、深遠なDNAの世界を描き出すことに成功している。

初版2013/10 朝日新聞出版/ハードカバー

2014.01.14

書評<第三の銃弾>

アメリカの田舎町で隠遁生活を送っているかつての名スナイパー、ボブ・リー・スワガーに、奇妙な調査依頼が舞い込んだ。依頼は住宅街で轢き殺された小説家の妻からで、夫の死に不審な点があるというのだ。そしてそれは、50年前のJFK暗殺に関わるものと思われた。スワガーは熟考の末に調査を引き受けることに。なぜ、犯人は暗殺を実行したビルの中で、ベストポジションともいえる場所で射撃しなかったのか?なぜイタリアのマイナーなライフルが使われたのか?なぜ発射された銃弾は、通常想定される弾道とは違う、謎の弾道をとったのか?タイトルにもなっているが、なぜ「第三の銃弾」の痕跡は残らなかったのか?スワガーは調査を進めていくうち、過去との因縁に絡み取られていくことになる。

著者の看板、<スワガー・サーガ>の最新作のテーマは、2013年に50年目の区切りを迎えるJFK暗殺。その暗殺方法と犯人の実像に謎が多いことから、今なお様々な陰謀説を今も生み出している。今回、スワガーは彼の世界の中心である、銃器を通して暗殺の謎に挑む。<スワガー・サーガ>はなんといってもガン・アクションが魅力だが、本作はそのテーマからミステリー的な謎解きが多く、アクションは抑え目。さらに物語の後半は、JFK暗殺の黒幕の独白が文章量の半分を占める。だが、スワガーが状況証拠から暗殺の技術的な謎を明らかにしていき、黒幕の独白が政治的な動機を明らかにしていく物語の構成が、読者をグイグイと引き込む。本書は立派なフィクションなのに、これが最適解だと誤解しそうになるほどだ。
本書はアメリカを”エリートの独善”で守ろうとした男と、アメリカを銃弾で守ってきた男の対決を、見事に書き切ったエンターテイメントである。

初版2013/11 扶桑社/扶桑社ミステリー文庫

2014.01.13

三井三池炭鉱・万田坑跡に行ってみた

ネットで見かけて以来、自分でも撮ってみたいと思ってた、三井三池炭鉱・万田坑跡に行ってみた。世界文化遺産候補で、観光客もそこそこに。
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高架線など周囲の景色のせいもあって、思ったより「廃墟感」がなかったというのが、正直な感想。
まあしかし、高いカメラでアングル凝るよりも、iPhoneで撮ってinstagramで加工する方が”雰囲気写真”が撮れるというのは、時代ですなあ。写真も勉強、勉強っと。

2014.01.12

書評<サンフレッチェ情熱史>

2013年のJ1を制し、2連覇を達成したサンフレッチェ広島。だが、サンフレッチェは常に優勝を争う強豪ではなかったし、今後もそうなることはないだろう。予算はJ1所属チームの中で中位程度、強くなればなるほど、その中心選手を他チームに抜かれていく、地方チームの矛盾を常に抱えるチームであり、現にチーム創設から20年の間に、2度のJ2降格を経験している。そのチームがなぜJ1になんとか踏みとどまり、リーグ制覇を成すことができたのか?そこには著者をはじめとする”広島人”たちの情熱があった。本書はチーム情報誌を発刊するスポーツジャーナリストであるながらサポーター目線も併せ持つ著者が見た、サンフレッチェの20年史である。

著者はJリーグブームが去り、各チームが苦境に陥り始めたときからサンフレッチェを追い続け、チームのフロントや選手、またサポーターからも信頼の厚い人物である。本書は、挫折と苦難の日々を歩み続けたチームの中心人物たちを見続けた、著者の人生の物語ともいえる。その著者と、彼が見続けたチームには、常に情熱溢れる人物たちがいた。そもそも、彼がサンフレッチェ専属ともいえる立場になろうと決意したのは情熱溢れる2人の人物との出会いゆえだったし、その後もなんとかチームを支え続けようとする人たちが20年の時を繋いだ。著者はそうした人物たちが成した事、成しえなかったことを書くことにより、クラブの歴史の物語を紡ぐことに成功している、もちろん、情熱ですべてがうまくいけば、J2降格などあろうはずがない。予算という最大の障害をはじめとして、プロチームの維持は困難がつきまとう。かつてJ1に所属しながら、J2に”定着”してしまったチームも数多い。そうしたチームとサンフレッチェは何が違ったのか?本書はそれをおぼろげだが、描き出すことに成功している。広島とサンフレッチェを知る人ならば、読み終わる頃には目が潤むこと必死な本である。

初版2013/12 ソル・メディア/ソフトカバー

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