書評<第三の銃弾>
アメリカの田舎町で隠遁生活を送っているかつての名スナイパー、ボブ・リー・スワガーに、奇妙な調査依頼が舞い込んだ。依頼は住宅街で轢き殺された小説家の妻からで、夫の死に不審な点があるというのだ。そしてそれは、50年前のJFK暗殺に関わるものと思われた。スワガーは熟考の末に調査を引き受けることに。なぜ、犯人は暗殺を実行したビルの中で、ベストポジションともいえる場所で射撃しなかったのか?なぜイタリアのマイナーなライフルが使われたのか?なぜ発射された銃弾は、通常想定される弾道とは違う、謎の弾道をとったのか?タイトルにもなっているが、なぜ「第三の銃弾」の痕跡は残らなかったのか?スワガーは調査を進めていくうち、過去との因縁に絡み取られていくことになる。
著者の看板、<スワガー・サーガ>の最新作のテーマは、2013年に50年目の区切りを迎えるJFK暗殺。その暗殺方法と犯人の実像に謎が多いことから、今なお様々な陰謀説を今も生み出している。今回、スワガーは彼の世界の中心である、銃器を通して暗殺の謎に挑む。<スワガー・サーガ>はなんといってもガン・アクションが魅力だが、本作はそのテーマからミステリー的な謎解きが多く、アクションは抑え目。さらに物語の後半は、JFK暗殺の黒幕の独白が文章量の半分を占める。だが、スワガーが状況証拠から暗殺の技術的な謎を明らかにしていき、黒幕の独白が政治的な動機を明らかにしていく物語の構成が、読者をグイグイと引き込む。本書は立派なフィクションなのに、これが最適解だと誤解しそうになるほどだ。
本書はアメリカを”エリートの独善”で守ろうとした男と、アメリカを銃弾で守ってきた男の対決を、見事に書き切ったエンターテイメントである。
初版2013/11 扶桑社/扶桑社ミステリー文庫
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