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書評<シークレット・レース>


欧米では抜群の人気を誇る自転車ロードレース。肉体の限界に挑戦するサイクルレースは、ドーピングがごく当たり前のように行われてきたが、”沈黙の掟”と周到な対策により、世間に全面的に告発されることはなかった。だが、アメリカでその構造にメスが入り、ツールド・フランスを7度勝利したランス・アームストロングの成績剥奪につながることになる。本書はランスのチームメイトであったタイラー・ハミルトンがその半生を振り返り、アメリカの田舎町のやんちゃな少年がロードレースのエースになるかたわら、ドーピングに手を染め、それによって内心がどのように動いていたかを告白する。

スポーツ関連のノンフィクションとして評価が高く、ドーピングの問題にも興味があったので本書を手に取ってみたが、スポーツ観戦はサッカーぐらいの自分にとって、サイクルレースの実態は衝撃的であった。散歩もろくに出来ないほど特殊な肉体を作り上げ、そこからさらにドーピングによって常人とは異なる心肺機能を発揮させる過酷なトレーニング。敗北したチームは即スポンサーを失う恐怖からくる、苛烈なレースとチーム内の序列の複雑さ。そうした事情のすべてを、タイラー・ハミルトンは告白していく。
そしてチャンピオン、ランス・アームストロングの強烈な個性。ドーピングが疑われ、不利な立場に追い込まれてもなお、栄光を守るために戦う攻撃的な性格。本書の主人公、タイラーはランスのチームを離れてもなお、彼と関わらざるをえない。それはドーピング使用告白後も続く。
本書はただドーピングを告発する本ではない。タイラー・ハミルトンの半生と、世界的なサイクルレースの全貌を描き切った、優れたノンフィクションである。

初版2013/05 小学館/小学館文庫

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映画「RUSH」を見てきた

映画「RUSH」を見てきた。郊外シネコンのレイトショー、お客は少なめ。

ときは1970年代。舞台はあたりまえのように、毎年ドライバーの死亡事故が起きていた時代のF1。そのチャンピオンシップを争う、2人のライバルがいた。本能のままに走り、私生活も自由に享楽的に生きる、人々が想像するスーパースターの姿そのもののジェームス・ハント。緻密なセットアップで、速さを論理的に追求するニキ・ラウダ。対照的な2人が1976年のランキングを争っていたが、雨のニュルブルクリンクでラウダがクラッシュ、重度の火傷を中心とした重傷を追う。その年のチャンプはハントに決まりかと思われたが、ラウダが奇跡の復活を果たす。舞台は豪雨の最終戦、富士。果たして決着はいかに?

長いF1の歴史の中でも、屈指のライバルとして語り継がれてきた2人のチャンピオン争いを、エンターテイメントの名手であるロン・ハワード監督が映画化。まだマシンとして荒削りな1970年代のF1マシンを迫力ある姿で描きながら、なおかつ2人の対照的な人物を描き切り、熱過ぎる映画となって完成している。
映像的には生々しいエンジンの鼓動と、血の赤に染まっているように見えるラウダのフェラーリの迫力が凄まじい。CGを使えばなんでも出来る時代にあって、あえてアングルを絞ることにより、当時のレースを見ている気分にさせる。当時のサーキットの看板、オフィシャルカーなど背景にも抜かりはない。レースシーンはドライバーの主観でも描かれるが、ラウダの復帰レースで、それまでボケていたラウダの視界が、ドンと焦点が合うシーンは燃えるやら、感動するやらで大変だ。
人物描写も見事。享楽的なスーパースターだが、ゆえに苦悩も抱えるハント。緻密な頭脳を駆使して走るラウダは現在のF1パイロットたちに通じるが、その秘める熱い思いはハントにひけをとらない。対照的な2人が最後まで分かりあうことはないが、「宿敵の存在を神の仕業だと思え」というラウダの言葉に象徴されるとおり、お互いがいなければ、2人のチャンプは生まれなかったかもしれない。
ロン・ハワードの作る”安心のエンターテイメント”でありながら、今どきのハリウッド映画にありがちな作り物くささが抜けた、とにかく熱い映画に仕上がってる。必見の作品です。

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書評<神秘のクジラ イッカクを追う>

カナダとグリーンランドの北極圏に生息するクジラ、イッカクはいまだ謎の多い動物である。数メートルにもなる槍のような長い牙を持つ姿こそ有名であるが、生息域や生息数、おおまかな生態も大雑把にしか分かっていいない。本書は科学ジャーナリストである著者が、ツアーや調査旅行に同行してその姿を生で観察し、また研究者へのインタビューを通して、現在分かっている限りのイッカクの真の姿を明かしていく。

伝説の怪獣であるユニコーンとの類似性から有名なイッカクであるが、人間にとっていまだ過酷な北極圏を生息域にしていることもあり、調査は進んでいない。そもそもあの長い牙からして、何のためにあり、何に使っているのか論争中なのである。メスに牙がないことから、性的アピールのツールという説が一般的。だが、牙の構造が一般的なほ乳類と違い、歯髄と呼ばれる神経が通っている部位が外側、エナメル質が内側にあることから、感覚器であることを推測する学者もいる。本書はこうした異端の説にも触れながら、知られざるイッカクの生態をレポートする。
クジラを扱う書でありがちな、過剰に保護を訴える本ではない。著者はイッカクを日々の糧にする北極圏の人々と触れあい、その肉も口にしている。ただ、北極圏の環境が変わりつつあることは事実であり、貴重な生物種の今後は見守り続けなければならない。

初版2014/01 原書房/ハードカバー

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F-4C ANG Day3rd

いよいよ本年も花粉症の始まり。鼻をイジイジし過ぎて、深夜に鼻血出したり、目がショボショボして焦点が合いにくかったりしますが、思いっきり窓を開けてエアブラシ吹き。
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いやー、エアクラフトグレー1色というのは楽やね。機体は黒立ち上げしたものの、余計なシャドーはピカピカのANG機に相応しくないので、ほぼベタ塗り。それでも下地がツヤ消しになるガイアのサフのせいもあって光沢が足りないので、最終的にクリアーコーティングでツヤを出しましょう。
そうそう、今回、キャノピーのマスキングはこちらのマスキングシートを使用してます。100%ズレなし、とはいえませんが、作業時間短縮は間違いなし。幸い、老眼にはまだなってませんが、焦点あわせるのに時間がかかる年齢に達しているので、だんだん必須アイテムになってくるかも知れませんね。

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F-4C ANG Day2nd

帝国の首都、東京はワンフェスやら都知事選挙とか大雪とか、たいへんなことになっているようですが、西日本はあんまり関係なくANGのF-4C再開。
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今日は非常にノッていたのですが、エアクラフトグレーを切らし、さらに補給に行ったホビーボックスも売り切れという悲劇。明日は買いに行けるかな。

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書評<太平洋戦争のロジスティクス>

太平洋戦争で語られる悲劇の一つは”飢え”であり、それは戦場戦線への補給の失敗である。連合軍に対して正面兵器を揃えたものの、補給を軽視し、物資不足を精神論でカバーするという、近代戦におおよそそぐわぬ戦略を用いて多数の犠牲を出した日本陸海軍への非難は、多くの本で語られてきた。
本書はそれに疑義を唱える。軍隊の組織構成としては、諸外国に劣らぬ兵站部隊を揃えようとしていたし、少なくとも真珠湾攻撃以前の日中戦争では補給は滞ることはなかった。ではいったい、なぜ前述したような事態に陥ったのか?著者は組織、装備など多面的に分析していく。

本書は太平洋戦争の日本陸海軍のロジスティクスを、主に組織面と装備面から分析している。太平洋戦争を扱った戦記などの記憶を辿ると、とにかく理不尽がまかりとおっていたことだけが印象として残っている日本陸海軍の補給戦だが、本書を読むと印象は少し変わる。師団には立派な輸送部隊を”書類上”は揃えていたし、トラックや輸送船の標準化も開戦前から推進していた。それではなぜ、陸海軍の補給戦は失敗したのか?端的にいえば、国力を超えた師団を抱え、持てる力以上の国家連合を相手にした戦争の舵取りそのものの失敗であり、見通しの甘さが原因である。突き詰めていえば、当時の日本人は上は政府から、下は歩兵小隊まで、組織をマネジメントする資質に欠けていたといわざるをえないのだ。それが2014年現在、少しは改善されたのか?個人的には、たいして変わってないとの感想だ。権限と責任が曖昧な組織は、自分の勤務する会社も含めて、多数散見される。本書はミリオタだけでなく、経営者含めた広い層に読んでほしい。

初版2013/11 学研パブリッシング/ソフトカバー

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書評<機龍警察 未亡旅団>

機甲兵装と呼ばれる強化外骨格が戦場から溢れ出し、テロや犯罪現場に現れる近未来。機甲兵装のおかげでテロや犯罪は凶悪化し、悪化する世界情勢がそれに輪をかける悪循環。そうした特殊事案に対し、日本警視庁は新たに特捜部を設置し、事態に対処していた、
そして今回、新たなテロリストが上陸する。チェチェン紛争やそれに続く民族紛争で、夫や子供をなくした女性で構成された<黒い未亡人>と呼ばれる集団。彼女らは少女兵を使った自爆テロを常套手段とする、強硬派だ。エネルギー問題を中心に、ロシアとの関係を深める日本が、テロの標的となったのである。
初手から、多くの犠牲者を伴う激しい自爆テロを敢行した<黒い未亡人>。真の目標を破壊するために地下に潜った彼女らを、警視庁特捜部が追う。

今、もっとも熱い警察小説「機龍警察」シリーズ。4作目はチェチェンの<黒い未亡人>と呼ばれる女性闘士たちだ。怒りと憎しみに溢れ、少女たちの自爆攻撃を厭わない、日本では法的想定すらされていない敵。これまでの3作は特捜部の機甲兵装のパイロットたちに焦点があたっていたが、今回は警視庁の刑事である由紀谷警部が主人公格だ。かつては暴力の渦中に身をおいた彼が、事件を追い、憎しみにとりつかれた少女の心を溶かしていく取調べの描写は、激しいアクションシーンと共に、今作のハイライトである。
そして本作は、自爆するテロリストの心情と、連鎖するテロに正面から向き合っている。”革命を叫ぶ闘士”を自称しながら、犯罪者に成り下がり、少年兵を使い捨てるテロリストから一線を引いたはずなのに、結局は彼らと変わらない戦術を用いてしまう<黒い未亡人>のメンバー。著者は”鬼子母神”というキーワードを用い、彼女らの負の連鎖を表現する。その凄まじい情念と、日本警察の執念の戦いの描写は見事であり、凄まじく睡眠時間を削られてしまった。
連作のテーマの1つである<敵>も徐々に姿を現している。次回作が早くも待ち遠しい。

初版2014/01 早川書房/ハードカバー

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