書評<神秘のクジラ イッカクを追う>
カナダとグリーンランドの北極圏に生息するクジラ、イッカクはいまだ謎の多い動物である。数メートルにもなる槍のような長い牙を持つ姿こそ有名であるが、生息域や生息数、おおまかな生態も大雑把にしか分かっていいない。本書は科学ジャーナリストである著者が、ツアーや調査旅行に同行してその姿を生で観察し、また研究者へのインタビューを通して、現在分かっている限りのイッカクの真の姿を明かしていく。
伝説の怪獣であるユニコーンとの類似性から有名なイッカクであるが、人間にとっていまだ過酷な北極圏を生息域にしていることもあり、調査は進んでいない。そもそもあの長い牙からして、何のためにあり、何に使っているのか論争中なのである。メスに牙がないことから、性的アピールのツールという説が一般的。だが、牙の構造が一般的なほ乳類と違い、歯髄と呼ばれる神経が通っている部位が外側、エナメル質が内側にあることから、感覚器であることを推測する学者もいる。本書はこうした異端の説にも触れながら、知られざるイッカクの生態をレポートする。
クジラを扱う書でありがちな、過剰に保護を訴える本ではない。著者はイッカクを日々の糧にする北極圏の人々と触れあい、その肉も口にしている。ただ、北極圏の環境が変わりつつあることは事実であり、貴重な生物種の今後は見守り続けなければならない。
初版2014/01 原書房/ハードカバー
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