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2014.02.18

書評<シークレット・レース>


欧米では抜群の人気を誇る自転車ロードレース。肉体の限界に挑戦するサイクルレースは、ドーピングがごく当たり前のように行われてきたが、”沈黙の掟”と周到な対策により、世間に全面的に告発されることはなかった。だが、アメリカでその構造にメスが入り、ツールド・フランスを7度勝利したランス・アームストロングの成績剥奪につながることになる。本書はランスのチームメイトであったタイラー・ハミルトンがその半生を振り返り、アメリカの田舎町のやんちゃな少年がロードレースのエースになるかたわら、ドーピングに手を染め、それによって内心がどのように動いていたかを告白する。

スポーツ関連のノンフィクションとして評価が高く、ドーピングの問題にも興味があったので本書を手に取ってみたが、スポーツ観戦はサッカーぐらいの自分にとって、サイクルレースの実態は衝撃的であった。散歩もろくに出来ないほど特殊な肉体を作り上げ、そこからさらにドーピングによって常人とは異なる心肺機能を発揮させる過酷なトレーニング。敗北したチームは即スポンサーを失う恐怖からくる、苛烈なレースとチーム内の序列の複雑さ。そうした事情のすべてを、タイラー・ハミルトンは告白していく。
そしてチャンピオン、ランス・アームストロングの強烈な個性。ドーピングが疑われ、不利な立場に追い込まれてもなお、栄光を守るために戦う攻撃的な性格。本書の主人公、タイラーはランスのチームを離れてもなお、彼と関わらざるをえない。それはドーピング使用告白後も続く。
本書はただドーピングを告発する本ではない。タイラー・ハミルトンの半生と、世界的なサイクルレースの全貌を描き切った、優れたノンフィクションである。

初版2013/05 小学館/小学館文庫

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