書評<機龍警察 未亡旅団>
機甲兵装と呼ばれる強化外骨格が戦場から溢れ出し、テロや犯罪現場に現れる近未来。機甲兵装のおかげでテロや犯罪は凶悪化し、悪化する世界情勢がそれに輪をかける悪循環。そうした特殊事案に対し、日本警視庁は新たに特捜部を設置し、事態に対処していた、
そして今回、新たなテロリストが上陸する。チェチェン紛争やそれに続く民族紛争で、夫や子供をなくした女性で構成された<黒い未亡人>と呼ばれる集団。彼女らは少女兵を使った自爆テロを常套手段とする、強硬派だ。エネルギー問題を中心に、ロシアとの関係を深める日本が、テロの標的となったのである。
初手から、多くの犠牲者を伴う激しい自爆テロを敢行した<黒い未亡人>。真の目標を破壊するために地下に潜った彼女らを、警視庁特捜部が追う。
今、もっとも熱い警察小説「機龍警察」シリーズ。4作目はチェチェンの<黒い未亡人>と呼ばれる女性闘士たちだ。怒りと憎しみに溢れ、少女たちの自爆攻撃を厭わない、日本では法的想定すらされていない敵。これまでの3作は特捜部の機甲兵装のパイロットたちに焦点があたっていたが、今回は警視庁の刑事である由紀谷警部が主人公格だ。かつては暴力の渦中に身をおいた彼が、事件を追い、憎しみにとりつかれた少女の心を溶かしていく取調べの描写は、激しいアクションシーンと共に、今作のハイライトである。
そして本作は、自爆するテロリストの心情と、連鎖するテロに正面から向き合っている。”革命を叫ぶ闘士”を自称しながら、犯罪者に成り下がり、少年兵を使い捨てるテロリストから一線を引いたはずなのに、結局は彼らと変わらない戦術を用いてしまう<黒い未亡人>のメンバー。著者は”鬼子母神”というキーワードを用い、彼女らの負の連鎖を表現する。その凄まじい情念と、日本警察の執念の戦いの描写は見事であり、凄まじく睡眠時間を削られてしまった。
連作のテーマの1つである<敵>も徐々に姿を現している。次回作が早くも待ち遠しい。
初版2014/01 早川書房/ハードカバー
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