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書評<太平洋の赤い星>

驚異的な伸長をキープする経済成長を背景として、中国人民解放軍は近代化を急速に推し進めている。かつては数は揃っているものの、兵器のテクノロジーは先進国に比べて2世代、3世代分は遅れており、近隣国も”深刻な脅威”とはみなしてこなかった。しかしながら2014年現在、旧ソ連の兵器導入や多くの試作型の開発を経て、その力は強大になりつつある。特に海軍は、典型的な沿岸海軍だったものが、いまや堂々たる外洋型海軍に変貌しつつあり、練習・開発用とはいえ、空母を保有するに至っている。中国海軍は何を目指して拡大を続け、どんなドクトリンにしたがっているのか?中国海軍の目指す道を分析していく。

現在の日本にとって、安全保障上の最大の脅威となっているのが中国人民解放軍である。特に中国海軍は南シナ海などで直接間接に関与する事例も多くなってきている。本書は中国海軍の技術的な部分よりも、そのドクトリンに焦点を当てた解説書である。
その冒頭には、中国海軍のドクトリンの中心にマハンの海防論があるとされている。海洋国であるアメリカやかつての日本海軍が大いに参考にしたその論理を、もともと陸軍国である人民解放軍が採用しているというだけで、注目に値する事実だ。海洋貿易に依存する国にとってSLOC(海洋交通路)の確保はもっとも要諦となる規範であり、経済発展著しい中国にもそれが当てはまる時代なのである。中国の立場から見れば、SLOCの中心である台湾を中心とする南シナ海海域へのアクセス阻止・水域拒否は国防上の必然であり、その地域への進出も当然の帰結なのである。
本書はここを出発点とし、中国の海軍力を分析していく。中国が鋭意開発中といわれる対艦弾道ミサイルや、今まではほぼ飾りであった戦略原潜や攻撃原潜の充実にも触れ、彼らがただ単に、軍事力の膨張主義に囚われているのではないことを指摘する。本書は中国の海洋権益を守る戦力についても分析しており、それを超えたときが中国が真の”覇権主義”に囚われたとみるべきなのであろう。
さらに本書は、中国のソフトパワーに触れる。我々ミリタリーオタクはとかく軍事力そのものに興味が集中しがちだが、中国首脳は軍の拡充が”地域にとって危険ではないもの”であることをしっかり宣伝しているのだ。それがうまくいっているかは、また別の話だが。
本書は中国を分析することを仕事としてるシンクタンクのメンバーたちによって書かれたものだ。よって、中国海軍がウロウロする海域のすぐ隣で暮らす日本国民の感覚とは、多少違う面もある。しかし、中国海軍の幹部たちが考えているであろうことを知ることはできる本としては、貴重であろう。

初版2014/02 バジリコ/ハードカバー

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書評<福野 礼一郎のクルマ論評2014>

主として「モーターファン・イラストレイテッド」での車評の連載をまとめたもの。”いかなる技術をもってしても超えられない物理則”をクルマの評価の基準点におく氏の定評のある評論が展開される。主にBMW、メルセデス、ジャガー・ランドローバーなどの輸入車が取り扱われる。

掲載されている「モーターファン・イラストレイテッド」をときどき購入しているが、あからさまに車種選択に”えこひいき”が見られるのがまず残念。日本車はマツダとホンダだけだし、ドイツ系の先進技術満載の車種が評論の中心になっており、かつそれらの評価が高いのは、同誌編集長の意向もあると思われる。本来ならメルセデスのCLAなんかは、著者の過去の論評を知るものにとっては、もっと厳しい評価があってしかるべきだと感じるし、後書きで著者も言い訳めいたことも記しており、「切れ味が鈍った」と評価する読者がいてもしょうがないと思われる。
ただ、やはり氏の論評のレベルが高いのも確か。例えば車体溶接に関する論評。他の雑誌では「ドイツメーカーが線溶接を導入する中で、いつまで経っても日本メーカーはスポット溶接の施設を維持しており、時代遅れ」などと書かれているが、著者は線溶接にも塗装のレベルが低くなるといった問題があり、一長一短であることを指摘する。日本メーカーだって、ダテに世界中でバカスカ車を売ってるわけではないのだ。
願わくば、著者のもっと厳しい批評を読みたいものである。

2013/03 三栄書房/ソフトカバー

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書評<モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」>

数々のチャンピオンシップを手にし、世界ナンバーワンとなった監督、ジョゼ・モウリーニョ。ポルトガル、イタリア、イングランドを渡り歩いた彼が次の冒険の地に選んだのは、スペインのビッグクラブ、レアル・マドリーであった。数々のタイトルを手にしたモウリーニョはもはやただのサッカーのコーチにとどまらず、クラブ内部のすべてを掌握しようとした。それ対し、”マドリズモ”と呼ばれる独特のクラブ文化を体現する選手が抵抗をみせ、クラブは内乱状態となる。本書は、強烈な個性がぶつかり合ったビッグ・クラブの3年間を描き切ったノンフィクションである。

本書はノンフィクションではあるが、あくまで選手、クラブのスタッフ、その他関係者の証言で組み立てたものであり、モウリーニョから見たクラブ側への反論はまったくない。その意味で公平なレポートではないが、世界ナンバーワンとされた監督の手法を垣間見ることができるのは確かである。
モウリーニョは常に”敵”を設定する。スペインでのそれは、ときには審判であり、試合日程をコントロールするサッカー協会であり、世界一魅力的なサッカーをプレイしているとされるバルセロナである。対立軸を設定し、選手たちのモチベーションをあげていく。モチベーターとしてのモウリーニョの真骨頂である。これまでうまくいっていたその手法が、レアル・マドリーでは行き詰まりをみせてしまう。
誤算があったとすれば、それはクラブのすべてをコントロールしたいモウリーニョのエゴが、これまで指揮していたクラブの在籍していたときよりも大き過ぎたことだろうか。自らの代理人である人物が推薦する選手を優遇し、選手たちの発言をコントロールし、クラブのスタッフの人事権にすら口を出す。それら大き過ぎるエゴは、確固たる歴史と信念を持つクラブと相容れなかったし、スター選手たちとも衝突することとなる。どんなに名監督でも、世界一のビッグクラブのすべてを支配できないのだ。
モウリーニョを賞賛する類書が日本でもたくさん出版されているなかで、本書はスター監督の挫折といっていい、別の一面を見ることができる本である。願わくば、モウリーニョからの反論も読んでみたいものだ。


2014/02 ソル・メディア/ハードカバー

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<パンダが来た道: 人と歩んだ150年>

愛くるしい容姿で人々を魅了し、動物園の人気者ナンバーワンをほしいままにする動物、ジャイアントパンダ。だが、その容姿ゆえに、多くの政治的取引の材料とされてきた。中国の秘境でひっそりと暮らしていたジャイアントパンダが発見された後、どのように世界に紹介され、政治的取引の材料となり、野生動物保護の象徴となったのか?本書はその歴史を明かしていく。

我々日本人にとっても、ジャイアントパンダは愛くるしい動物だが、欧米の人々にとっては日本人以上に保護欲をそそる動物であるらしい。そうでなければ説明できないほど、欧米人のパンダへの執念は絶大だ。19世紀の”冒険の時代”に前人未到の中国奥地に分け入り、はじめはその毛皮を、やがて生きたままパンダを持ち帰った。その間に中国と世界の政治体制は大きく揺らぎ、大戦も勃発した。何度も困難にぶつかりながらも、中国からパンダを連れ出した。それを実現するには初期には個人の情熱が大きかったが、やがて世界各国と中国両側の政府の思惑に大きく影響されるようになる。中国はパンダに政治的価値を見出し、世界もそれを利用した。パンダはただの野生動物ではなくなったのである。
日本もそのことから逃れられない。東日本大震災後、仙台市が中国に高額な料金を支払ってパンダを購入することに批判が集まったのは記憶に新しい。
本書はジャイアントパンダの生態についての記述は控えめだ。その繁殖方法の研究も含め、あくまでパンダと、人と、政治の物語である。


初版2014/01 白水社/ハードカバー

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書評<コルトM1851残月>

江戸の裏社会において、抜け荷を稼業とする朗次、二つ名は残月。朗次は一方で長崎で手に入れたコルトM1851連発銃でジャマな敵方を排除し、裏社会の地位を上げていく。しかし、自分の意地と仁義を通した後に、親分衆たちの信頼を失い、部下の裏切りもあって窮地に陥っていく。

<機龍警察>シリーズで、いまや注目されるべき作家の一人となった著者の時代劇。主人公の暗い過去。裏切りが日常茶飯事の裏社会。銃と日本刀による暴力描写。時代背景はともかく、ハードボイルドと呼ばれる要素が揃っているが、なによりも特筆すべきは主人公の情念であろう。著者は過去に傷がある人物の感情描写の変化の表現が非常に巧みだ。江戸時代には疎いので、その時代設定に整合性があるかどうかは自分には判断できないが、時代劇とハードボイルドとガンアクションを巧みにミックスさせた、娯楽小説であることは確かだ。

初版2013/11 講談社/ハードカバー

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書評<Jリーグの戦術はガラパゴスか最先端か>

世界最高峰のヨーロッパチャンピオンリーグの試合をはじめ、各国リーグの試合が生中継で世界中で同時放映され、さらにネットでの情報発信により、情報伝達が非常に早くなるなかで、各国のクラブチーム、代表チームの戦術はバルセロナなど一部をのぞき、似通ってきているのは事実である。ワールドカップが戦術と選手の見本市と呼ばれ、4年に一度、サッカーのトレンドが変わる時代ではもはやなくなっている。
そんな現代でも、特徴ある戦術をとるチームがJリーグには存在する。2012年・2013年のシーズンの連覇を果たしたサンフレッチェ広島。ブラジル式のクラブ運営メソッドと戦術を維持し続ける鹿島アントラーズ。練習風景から衝撃を与えたオシム時代のジェフ千葉。本書は特徴ある新旧のJリーグのチーム戦術を解説し、それが生まれた背景を追っていく。

2014年現在のチャンピオンチーム、サンフレッチェ広島の戦術が世界的にも特徴があるため、本書が今流行の”ガラパゴス”という言葉を使ったタイトルになっているのだと思うが、各国リーグにも異端の戦術を取るチームはあるわけで、本書の実態はJクラブの中で際立ったチームの解説書である。
本書は基本的にはサッカーの戦術解説の本であるが、JリーグがJリーグである所以もはしばしに見ることができる。ヨーロッパ式とブラジル式のクラブ運営メソッドが混在するのはなぜか?構築に時間のかかる戦術をとるチームと、獲得した新戦力が即、チームに馴染むサッカーをしているチームが混在しているのはなぜか?フロントと育成が優秀なチームとそれ以外では、どのような差が出るのか?優秀な選手は海外を目指す現実に対応できたチームと出来ないチームの差は何か?直接的な答えが本書にあるわけではないが、こうしたクラブ運営の考察にも役に立つ良書である。

初版2014/02 東邦出版/ソフトカバー

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F-4C ANG Completed

ハセガワ1/72F-4CファントムⅡ(OREGON ANG)、完成しました。
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長く現役にとどまり、ヨーロッパから東南アジアまで様々な地域に配備され、様々な塗装パターンが存在するアメリカ空軍のファントムⅡですが、F-110としての登場時はエアクラフトグレー単色の迎撃機仕様でした。以後、ベトナム戦争参戦と同時にSEA迷彩に切り替わりますが、本土の州空軍に配備されるファントムⅡは防空戦闘機として、ピカピカのグレーを纏いました。
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キットはハセガワの1/72F-4Cをストレート組み。ガイアのブラック・サーフェサーを使用して黒立ち上げにしていますが、州空軍の機体ということであまりシャドーを残さず、トップコートもスーパークリアーⅢを使用してかなりのピカピカ塗装で仕上げています。でも、これが似合うのです。
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デカールは古いマイクロスケールデカールからオレゴンANGをチョイス。マイクロスケールデカールの指示書がイマイチ分かりにくく、重大なミスも生じてしますが、資料を確認しなかった自分が悪いということ。それと、年代によってパネルライトの有無やスタビレーターの補強など目立つ違いも生じてますので、ストレート組みといえど、最低限の確認をすることが必要だと、あらためて再認識。
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自分の場合、2ヶ月もプラモデル触っていないと、とたんに感覚が鈍ることが判明した今回のモデリングでした。忙しいとか気分がノラないとかありますが、少しでも触って、資料見とけば大分違うんですよね、完成したときのクオリティが。ということで、ひさびさに反省しきりの製作ですが、ピカピカのファントムが美しいので、良しとしましょう。
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