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2014.03.22

書評<太平洋の赤い星>

驚異的な伸長をキープする経済成長を背景として、中国人民解放軍は近代化を急速に推し進めている。かつては数は揃っているものの、兵器のテクノロジーは先進国に比べて2世代、3世代分は遅れており、近隣国も”深刻な脅威”とはみなしてこなかった。しかしながら2014年現在、旧ソ連の兵器導入や多くの試作型の開発を経て、その力は強大になりつつある。特に海軍は、典型的な沿岸海軍だったものが、いまや堂々たる外洋型海軍に変貌しつつあり、練習・開発用とはいえ、空母を保有するに至っている。中国海軍は何を目指して拡大を続け、どんなドクトリンにしたがっているのか?中国海軍の目指す道を分析していく。

現在の日本にとって、安全保障上の最大の脅威となっているのが中国人民解放軍である。特に中国海軍は南シナ海などで直接間接に関与する事例も多くなってきている。本書は中国海軍の技術的な部分よりも、そのドクトリンに焦点を当てた解説書である。
その冒頭には、中国海軍のドクトリンの中心にマハンの海防論があるとされている。海洋国であるアメリカやかつての日本海軍が大いに参考にしたその論理を、もともと陸軍国である人民解放軍が採用しているというだけで、注目に値する事実だ。海洋貿易に依存する国にとってSLOC(海洋交通路)の確保はもっとも要諦となる規範であり、経済発展著しい中国にもそれが当てはまる時代なのである。中国の立場から見れば、SLOCの中心である台湾を中心とする南シナ海海域へのアクセス阻止・水域拒否は国防上の必然であり、その地域への進出も当然の帰結なのである。
本書はここを出発点とし、中国の海軍力を分析していく。中国が鋭意開発中といわれる対艦弾道ミサイルや、今まではほぼ飾りであった戦略原潜や攻撃原潜の充実にも触れ、彼らがただ単に、軍事力の膨張主義に囚われているのではないことを指摘する。本書は中国の海洋権益を守る戦力についても分析しており、それを超えたときが中国が真の”覇権主義”に囚われたとみるべきなのであろう。
さらに本書は、中国のソフトパワーに触れる。我々ミリタリーオタクはとかく軍事力そのものに興味が集中しがちだが、中国首脳は軍の拡充が”地域にとって危険ではないもの”であることをしっかり宣伝しているのだ。それがうまくいっているかは、また別の話だが。
本書は中国を分析することを仕事としてるシンクタンクのメンバーたちによって書かれたものだ。よって、中国海軍がウロウロする海域のすぐ隣で暮らす日本国民の感覚とは、多少違う面もある。しかし、中国海軍の幹部たちが考えているであろうことを知ることはできる本としては、貴重であろう。

初版2014/02 バジリコ/ハードカバー

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