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2014.04.19

書評<寄生虫なき病>

アレルギーや喘息に代表される自己免疫疾患は、根本的な治療法がいまだに確立されず、多くの人が苦しんでいる。アレルギーという病は決して”昔はなかった”病ではないが、ある時期から劇的に発症が増えている。それは都市化が進む先進国で、水道整備や下水処理施設の建設が進み、「公衆衛生」が確立された時期と重なるのだ。人間の体から寄生虫が駆除され、人体が抱えてきた細菌が劇的に変化した時期でもある。すなわち、寄生虫の不在が、アレルギーをもたらしているということが証明されつつあるのだ。近年ではこうした研究を元に、駆除した寄生虫を人体に戻す”寄生虫療法”すら行われているようになっている。本書は寄生虫と人間の関わりの変化が自己免疫疾患をもたらしているという研究をたどり、その「衛生仮説」を解説する。

人類は細菌、ウイルスがもたらす病に苦しめられてきた。しかし、少なくとも先進国では公衆衛生とワクチン接種の確立により、死に至る感染症にかかるリスクは劇的に減少した。代わりに台頭してきたのが自己免疫疾患であり、その相関関係は古くから指摘されてきた。近年、遺伝子の解析、免疫細胞と免疫システムの”活発すぎる”活動を抑制する細胞の研究により、それが科学的に証明されてきたのである。著者は多くの研究者にインタビューし、アレルギーその他の自己免疫疾患にとどまらず、一見相関性のなさそうな、自閉症などの病気についても、免疫システムとの関わりを指摘している。個人的には近年になって目立つ病気をなんでも「衛生仮説」のせいにするのは反対だが、検討に値することは確かだ。
本書に説得力があるのは、著者自らが自己免疫疾患の患者であり、寄生虫療法を試していることだ。複数の症状を抱える彼は、寄生虫療法によって改善した症状、改善しなかった症状をキチンと書き、その原因を自分の取材した知識に照らし合わせることにより、なぜ効いて、なぜ効かなかったかを検討することにより、新しく、また危険な治療法をリアルに伝えている。
本書を読んで誤解して欲しくないのは、寄生虫とウイルスの駆除に代表される公衆衛生の確立と、自己免疫疾患の発症は、天秤にかけるまでもなく公衆衛生の確立の方が人類を救っているということだ。人類の数がこれほどまでに急速に増加したのは、公衆衛生の確立以後のことである。それまで人は、ほんの少しの切り傷が致命傷になる世界に棲んでいたのである。問題は、環境の変化が早すぎて、人体の適応や進化が追いついていないことなのだ。
本書によると、自分たちがとりあえず出来そうなのは腸内細菌を整えること、安易に抗生物質に頼らないことのようだ。ワタシは、ヤクルト飲むことにします。

初版2014/03 文藝春秋/ハードカバー

2014.04.13

書評<エア・パワーの時代>

ライト兄弟の最初の動力飛行の以前から、気球などの航空機が戦争に使用されてきた。第一次世界大戦以後、急速なテクノロジーの発展から、もはや航空機による制空権の確保、地上部隊の援護などの各種任務の達成なしには、戦争の勝利はありえなくなり、”エアパワー万能論”もハバをきかせるようになった。しかしながら、第二次大戦を頂点として、空軍の航空機は削減され、特に不正規戦、非正規戦がメインとなる現代では、エアパワーはその力を使いきれていないのが現状だ。本書はエアパワーの武力としての位置づけを歴史を追いながら探り、その力の本質は何かを結論づけていく。

ほとんどの国において、空軍はテクノロジーに溢れ、パイロットはヒーロー代わりのエリートで、ある種の華やかさがある。そのおかげか、たいていの空軍は予算面でも優遇され、エア・パワーはその力を最大限発揮する大規模戦争がなくても、その勢力が維持されてきた。本書の基本スタンスは、その”当たり前の軍事理論”に疑問を呈すものである。航空機がどんなに高性能になっても、結局は敵勢力を圧倒するには歩兵が必要であり、大型爆撃機が持つ戦略的役割も、1950年代以後は核にとって代わられている。まして、現代の最大の脅威であるテロリストに対するには、現代の空軍はあまりにアンマッチなのだ。本書のタイトルは「エア・パワーの時代」というよりも、「エア・パワーの時代の終焉」とすべきかも知れない。
もちろん、日本周辺をはじめとする太平洋はいまだ軍拡競争の真っ最中で状況は欧米と異なるし、あらゆる武力行為に対処するのには、何よりも制空権の確保が第一優先である。だが、未来の戦場にどんな航空機が必要であるか、思考すべき時代であるのは確かであろう。本書はそれを投げかけているのである。

初版2014/02 芙蓉書房出版/ソフトカバー

2014.04.12

書評<メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱>

1980年代後半、ラテンアメリカからアメリカ合衆国に流入する麻薬のルートに変化があった。主役がコロンビアのカルテルから、メキシコのカルテルに交代したのである。折りしも、メキシコとアメリカは自由貿易協定を締結し、メキシコ社会も大きな変化を迎えた時期でもあった。麻薬の密輸出はメキシコのカルテルに莫大な富をもたらし、その富を巡って各カルテルが血みどろの抗争を繰り広げることになる。そして、それを取り締まるべ警察は腐敗し、さらに事情を複雑にしている。本書はカルテルのメンバーやアメリカのDEA(麻薬取り締まり局)へのインタビューや緻密な取材をを元に、メキシコのリアルなカルテルの事情と、政府とカルテルの紛争というべきメキシコの現状を、余すことなくレポートする。

さほどマスコミのニュースに流れることはないが、ネットではメキシコの凄惨な殺人事件の画像を頻繁に見ることができる。首狩りをはじめとした、ある意味で中東でのテロよりも強烈な映像の原因は何なのか知りたかったのだが、本書は現状でベストといえるだろう。日本語訳ではかなり削ったとされる凄惨な殺人現場の様子が印象に残るのは確かだが、それ以上に本書はメキシコの”麻薬産業”の歴史を辿り、もはや政情不安としか言い様がない現在のメキシコ社会に至る原因をしっかりとレポートしている。国内外の脅威から市民を守るはずの軍が麻薬カルテルの殺人部隊の養成所になっている現状。地元警察が連邦警察と対立し、カルテル同士の抗争に加わる理不尽。麻薬の大消費地であると同時に、カルテルへの武器供給元となっているアメリカ。それらが、メキシコを”戦場”にしているのだ。
日本の企業の多くも、メキシコに工場を建設し、操業している。日本人が犯罪に巻き込まれないことを祈るのみである。

初版2014/03 現代企画室/ソフトカバー

2014.04.06

A-10A Day2nd

今日はスーパーGTの開幕戦、岡山ラウンド。GT500が新エンジン、新シャーシーでのレースで波乱が起きるかとTV中継見てたが、大きなトラブルなく、レクサスRC Fが勝利。F1のグダグダ加減と比べると、さすがでした各チーム。
そんなことを横目に見ながら、イタレリのA-10Aの小物を調理。
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パーツは台所用洗剤で洗浄して塗装、のはずなんですが、洗浄が足りなかったのか塗装の食いつきが悪く、マスキングテープの塗り分けに少し苦労。サーフェサーを吹くべきでしたかね。
武装はキットからマーベリックとサイドワインダーを生かし、ハセガワのウェポンセットからMk.82 500ポンド爆弾をチョイス。イラク戦争バージョンでいきます。
この調子でペース上げていきましょう。


2014.04.05

A-10A Day1st

2014年、このBlogが10周年を迎えると同時に、ワタクシが所属するBlog!Modelersも10周年を迎えます。ということで、2014年静岡ホビーショーにおける合同作品展での共通製作テーマは”10”。ということで、かたくなに1/72現用機モデラーを貫くワタクシとしては、お題は当初からこれでキマリです。
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タミヤ1/72A-10AサンダーボルトⅡ。中身はご承知のとおり、イタレリ製。特徴ある外見から、非常に人気の高い機体なので、コピー含めてどのメーカーからも昔からキット化されていますが、それゆえ現在のクオリティの製品は存在せず、自分の知る限りでは1/72ではいまだこのキットがベストです。
では、さっさく製作開始。
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7~8年前に一度、製作したことがあるこのキットですが、なんか記憶にあるより作りにくい(笑)。もうちょっとモールドが鋭くて、組み立てもサクサクいく予定だったんですが、流し込みセメント流して、テープでがっちり固めても、ポリパテ盛り盛りです。機首部分とエンジンポッド部分が特にスキマあり。ここらへんが事後変形がないよう、時間かけて接着しましょう。
5月のSHSまで、もう1ヶ月ちょっとしかないので、スピードアップしてきます!

2014.04.04

書評<イラストで学ぶ!世界の特殊部隊>①アメリカ編②ロシア・ヨーロッパ・アジア編

萌え絵を添えて、世界の特殊部隊を紹介するシリーズ。<アメリカ編>と<ロシア・ヨーロッパ・アジア編>に分けて、特殊部隊それぞれの成り立ちと組織、実戦の歴史を紹介する。装備への言及は少なく、軍の組織の中での特殊部隊の位置づけと任務を学ぶ書籍である。

いわゆる萌えミリタリー本のシリーズの1つだが、えらく評判がいいので読んでみた。なるほど、多彩なイラストはともかく、記載している内容は本格的で、正確だ。例えば、まず特殊部隊の任務として「非正規戦」と「不正規戦」を正確に分類し、そこでどのような役割を特殊部隊が果たすのかを解説する。恥ずかしながら、ワタクシ、非正規戦と不正規戦を混同していました。
特殊部隊の本もずいぶん読んだが、まだまだ勉強することがあると感じさせる本だ。

初版2014/02・2014/03  ホビージャパン/小型単行本

2014.04.03

書評<ニセドイツ1・ニセドイツ2>

かつて、東ドイツという国があった。アメリカとソ連が対峙する冷戦構造下、敗戦国ドイツは分割されたのである。資本主義陣営に属する西ドイツが戦後、急速な復興を見せたのに対抗し、東ドイツも共産主義の元、それに対抗してきた。だが、イデオロギーに統制された体制の中で生まれてきたモノは、西側で生み出されたモノに比べると、どうしようもなく低品質で、モノとしての進化を止めた、悲しいまでの”ニセモノ”であった。
本シリーズは東ドイツで生み出されたモノについて、(1)が主に工業製品を、(2)が主に生活雑貨を紹介し、ベルリンの壁の向こうの生活がどのようなものであったかを紹介する。

本書はあくまで共産主義の下に生み出された製品を笑い飛ばすサブカルチャー本だが、同時に貴重な資料本でもある。激しい競争の中、人々の欲望におもねるべく開発された製品に溢れた社会で暮らす我々には、粗末としかいえない製品が、ほんの25年前まで”共産主義きっての先進国”で生産され、使用されてきた。”公平で幸せな社会”で生み出された製品が、競争社会である資本主義で生み出された製品と競争しなければならない矛盾。その矛盾が、どうしようもなく胡散臭い”パチモン”を生み出したのである。共産主義という壮大な実験が生み出したものとは何か、具体的に知ることができる貴重な本だ。

初版2007/2009 社会評論社/小型単行本

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