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2014.06.29

書評<ねずみに支配された島>

現在、人類は地球のあらゆる場所に進出し、自然を作り変え、多くの生物を絶滅に追い込んでいる。これは事実ではあるが、真相は少し違う。生物多様性を破壊しているのは人類ではなく、人類と共に各地に渡ったげっ歯類、すなわちネズミたちである。特に外界から閉ざされた島嶼部においては、少数のネズミの侵入によって、現地の固有種が食い荒らされ、絶滅という取り返しのつかない結果をもたらす。本書は世界各地の島嶼部におけるネズミの侵入による生態系の破壊と、それを取り戻そうとする人たちの戦いのレポートである。

本書は広義には生物多様性の維持に関わる本であるが、実質的には、貴重な固有種である海鳥や地上生活性の鳥たちを守る人たちとネズミたちの戦いのレポートだ。人類が大陸から太平洋南洋の島嶼部に乗り出した遠い過去から、ネズミたちは人類とともに生息域を拡げていった。ネズミの爆発的な繁殖能力と、際限のない狩りが、美しい鳥たちの楽園を破壊していく。その破壊の凄まじさを目にした科学者たちは、罠や射殺といった古典的な方法や、強烈な毒を混入したエサを空中散布するという大胆な方法まで、様々な方法でネズミを駆除していく。
そこにある種の疑問を抱いてしまうのも事実だ。固有種を守るという謳い文句は正しいが、だからといってネズミの駆除は正しいことなのか?例えばニュージーランド。我々日本人には自然豊かな国に見えるが、実は中世に進出した白人たちがほぼ完全に”作り変えた”自然だ。元々の生物相はほとんど残っていない。そんな人類に、ネズミを駆除する資格があるのか?美しい鳥たちを守るのもまた、人類のエゴではないのか?地球の生物史レベルで見れば、鳥類たちの絶滅もまた、自然淘汰ではないのか?
本書はネズミの駆除をほぼ肯定的に、むしろ英雄的な行為として描いている。自分としては、自然保護を使命とする科学者たちの英雄譚として全面的には肯定できないが、全面賛成の読者もいるだろう。自然保護とは何かを考えさせられる1冊である。

初版2014/06 文藝春秋/ハードカバー

2014.06.10

書評<英雄への挑戦状―世界最高のサッカー選手論>

ワールドカップよりヨーロッパチャンピオンズリーグの方がサッカーのレベルが高い、と言われて久しいが、やはりワールドカップが世界各国リーグで活躍する英雄たちが一堂に会する機会であり、その活躍は注目を集める。本書はブラジルに集う、世界最高峰にいるプレーヤーたちをスペインのジャーナリスト、へスス・スアレスが紹介していく。英雄たちのプレーの特徴と、そのプレーを特徴づけるものは何か?彼らの心理にあるものは何か?鋭い筆致で分析していく。

本書はワールド・サッカー・ダイジェストにコラムを寄稿するジャーナリストによる、名プレイヤーたちの解説書である。その視線は一貫して”ボール・プレイヤーこそ至高”であることで、アスリート的な選手や、サッカーの楽しみと美しさを壊すディレクターたちはまったく評価しない。
それでいて、単なる”ファンタジスタ礼賛書”になっていないのが本書を読む価値のあるものとしている。シロウトから見ればエゴイストに見える選手たちの、奥底に抱える葛藤や戦闘的な心理。それらを知れば、ともかく献身的で、戦術的であることが求められるモダン・サッカーの中で、見るべき選手は誰なのか、ハッキリしてくる。コレクティブなサッカーを全世界が目指すからこそ、ブール・プレイヤーたちが浮き上がってくる時代でもあるのだ。本書は世界のサッカーを見る上で、読むべきテキストの一つである。

初版2014/05 東邦出版/ソフトカバー

2014.06.09

書評<毒ヘビのやさしいサイエンス: 咬まれるとアブナイ話>

一口に毒ヘビといってもその姿かたち、持っている毒や注入方法は多種多様であり、必然的に人が咬まれたときの対応も異なる。本書は日本に分布する毒ヘビを筆頭に、その特徴や毒の成分などを分かりやすく説明する。

自分もヘビは超がつく苦手であるが、その実、ヘビやその毒に関しては興味があり(そういう人は多いのではなかろうか)、本書を手に取ってみた。ヘビの毒といっても神経毒や血液毒など複数あり、その作用や対策も異なる。本書はヘビの生態とその毒の成分や対策に話が絞ってあり、その毒が進化の過程でどのようにヘビに備わったかなどの話は薄いが、神経毒の効き方など説明は図入りで分かりやすく、実用的だ。漠然としか毒ヘビについて知らない方にはおススメの一冊である。

初版2014/05  化学同人/ソフトカバー

2014.06.04

書評<越天の空 (上)>


かつて外敵の侵攻を受け、本土領土を失った日宇皇国。空中空母<八洲>を政府と軍と領土として、皇女・焔宮は国家再興をはかる。”私物”である戦闘機パイロット、飛来越天を唯一無二の剣として。戦火と政治が巡る物語の前編。

時代考証とすれば第一次大戦後であろうか。全金属製単翼機が”脅威の兵器”となり、エースが戦闘の推移を変えることができる、最後の時代。凝った設定と、いかにもラノベらしい”伝承された超技術”、それに政治が絶妙に組み合わされ、ハードな物語が綴られる。大人のミリオタが読むに耐えられる、新たな世界観を持った物語が登場した。

初版2014/05 イカロス出版/ソフトカバー

2014.06.03

書評<天冥の標VIII ジャイアント・アークPART1 >

”救世群”と呼ばれる致死性のウイルス感染者と、非感染者の争いから、地球と小惑星群に移住していた人類が”ほぼ絶滅”して300年。わずかに残った非感染者を絶滅せんと、プラクティスはなお執拗に残存人類の居住地へ攻撃を続け、非感染者はそれに対抗していた。だが、その戦いはたった1人、居住地の首領しか知らない。だが、ある意味で安定を保ってきた居住地にも、絶望がせまろうとしていた。壮大な物語が紡がれるシリーズ第8弾前編。

第8巻にして、ようやく”因果”が第1巻とつながった。争いを地底深くに押し込め、自らを太陽系外に拡散した人類であると”設定”し、過去を葬り去った人類が、ようやく真実を知ることになる。どんなふうにプロットを組むのかは推測するしかないが、10巻に及ぶ小惑星群に移住した人類の物語を、それぞれ違う人物の視点で描き、なおかつ因果を巡らせる著者の手腕は見事という他ない。
この物語も終わったわけではないが、SFやラノベ界は未完連作が多中で、著者の才能と努力には敬服するしかない。物語とは別に、そんなことをつくづく思わせる長編である。

初版2014/05 早川書房/ハヤカワ文庫NV

2014.06.02

Su-33 Day1st

2014年の静岡ホビーショー合同作品展に参加して、製作意欲が高まったときこそ、疲れた体にムチうって新作をいきましょう。お次はコレ。
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ハセガワSu-33フランカーD。フランカーの艦上型であり、カタパルトなしで離着艦ができるよう、カナードを追加、テールフィンを短くしたタイプです。ゲームやアイマス機のヒットを受けて、ハセガワが何十年ぶりの新金型によりソ連機を開発。そのインパクトは絶大なものがありました。また今年の7月にはフランカーのSu-35が発売されるとの事で、このタイミングで製作しておくべきでしょう。そして、まだスケジュール調整の目処がついていませんが、北海道モデラーズエキシビジョン参加を目指しての製作でもあります。
さっそく製作開始。
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今回は興もノッているので、苦手なエッチングを使いましょう。DreamModelの製品で、エアインティーク下面の開状態を再現。着陸状態で製作するのでありえないシチュエーションなのですが、見映えを重視。
さらにテンションが高いうちに、パーティング処理とマスキングが面倒なAAMを組み立てて塗装。
Dscn1922
キットのパーツでレーダーホーミングからIRホーミングまで、各種ミサイルを取り揃えることができます。フィンがやや厚いのが難点ですが、強度の問題上から、そのままで塗装しています。
なんとかSu-35発売までに仕上げよう。

2014.06.01

書評<タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物>

タコは我々日本人にとって身近な生物の1つであるが、その特徴的な体の仕組みや生態は意外と知られていない。タコは無脊椎動物としては驚異的に知能の高い生物であり、水槽で飼われているタコは飼育係を記憶するくらいには記憶力があること。8本の足は脳の”中央制御”ではなく、それぞれに司令系統があるらしいこと。体色を変えるのみならず、皮膚の質感を変えることができること。本書は知られざるタコの生態を明らかにしていく。

本書がタコの身体的・生態的な特徴の研究にスポットを当てた本であるが、単なる解説書ではない。各章ごとにタコの特徴と人間との関わりを解き明かしていく。スペインなどで実施されているタコ漁を取り上げて、その住みかの特徴を説明したり、8本の足をコントロールする神経系統の研究と軍事研究との関わりを明かしていく。そうすることで、人間と関わりの深い生物ながら、意外とその姿が明らかになっていないタコの能力がよく分かるのだ。
日本人として名誉(不名誉?)なのは、タコをエロチックな”触手モノ”として描いたのは日本の春画だとされていること。海女さんとのカラミを書いたものらしい。オレたちのご先祖様は、やっぱりオレたちのような人間だったようだ。

初版2014/04 太田出版/ソフトカバー

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