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2014.07.15

書評<背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?>

STAP細胞の不正論文と小保方氏を巡る昨今の騒動は、大々的な報道と小保方氏の特異なキャラクターにより、いわゆる科学者の世界を超えたものとなった。まだ正式な結論や処分は出ていないが、画期的な発見は訂正されてしかるべき状況である。”科学者の楽園”ともいわれる理化学研究所で、なぜ若き研究者が不正をするに至ったか?ネットをはじめ様々な論考がなされている。
本書は原著の初版が1983年と古いが、科学者の不正を巡る著作として代表的なものであり、今回の騒動を受けて再販されたものである。プトレマイオスの時代から科学者は不正行為に手を染め、いまやカリスマである中世の科学者たちも不正を行っていたことを明かしていく。論文を精査するシステムが整った現代においてさえ、絶えない科学者の不正行為を紹介・検討し、そのに至る科学者の心理や状況はいかなるものか、またどのように改善したら良いかを示した著作である。追記として、1983年以降の代表的な不正・捏造行為についても網羅している。

本書は読んだ感想をひと言でいえば「科学者も弱い人間の一人」であることだ。サイエンティストのイメージとは、優れた仮説とそれを証明する実験で革新的な発見をする、客観的でかつ信念を持った人物だ。しかし、科学者もそれなりの名誉や収入が欲しいし、科学に実利が求められる昨今では、研究費を政府や企業から引き出すのも重要な仕事である。また、科学者は孤高の存在ではなく”科学界”と呼ばれる世界の住民であり、先輩科学者の権威には逆らえず、ときには仲間をかばうこともある。彼らは科学者である前に”社会的動物である人間”であるのだ。
現代において科学はほぼ”宗教”と化している場面が多々ある。自分も唯一信じる宗教があるとすれば、科学と答えるだろう。だが、それも常に疑義を持って問い直す必要がある。本書はそれをひしひしと感じさせてくれる名著である。

初版2014/06(原著1983)  講談社/ソフトカバー

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