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書評<ルイ・ファン・ハール 鋼鉄のチューリップ>

プロサッカーにおいて、名将の一人として名高いオランダのファン・ハール。監督としてのキャリアをスタートしたオランダでは名門クラブの監督と代表の両方を歴任し、海外においても、バルセロナはじめとして多くのビッグ・クラブを率いている。彼の監督としての手腕は確かだが、一方で彼は傲岸不遜なキャラクターとして知られ、現に多くの選手やメディアと確執がある。その彼の半生を追い、名将の真の姿を描き出すノンフィクション。

2014年のワールドカップでは、下馬評の低かったオランダを率い、大会のサプライズをもたらした監督の一人であったファン・ハール。彼はミケルスからクライフへ受け継がれたアヤックスのパス・サッカーを完成させた戦術の専門家であるだけではない。選手のマネジメントやクラブへの関わり方など、多くの面で独特の哲学を持つ監督である。本書は彼の詳細な経歴やエピソードを追い、クラブオーナーやスター選手との衝突をいとわず、常に自分の哲学を貫く彼の生き様を描き出す。
本書はまた、オランダとその代表都市であるアムステルダムという、独特の空気を持った国家と都市を体現する男としてのファン・ハールをも描き出す。日本人にはエゴにもみえる意見と個性を曲げない気質を自らも持ちながら、そのオランダ人たちをまとめなければならなかった彼が、個性的なメンツが揃う世界のサッカー監督たちの中でも、ひと際目立つ存在であるのも当然であろう。ファン・ハールの独特の個性を、非常に巧みに描いた作品である。

初版2014/12 カンゼン/ソフトカバー

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書評<イスラム国 テロリストが国家をつくる時>

シリアの凄惨な内戦、イラクでのテロが続く中東で、急速にその勢力を伸ばし、支配地域を拡大している「イスラム国(IS)」。彼らはアルカイダ、あるいはタリバンといった従来のテロ組織と何が違うのか?本書はISが目指す理想とその手段を整理していくことにより、その実態を明らかにしていく。

一般人よりは中東情勢をウォッチしているはずのミリオタでさえ、唐突に現れた感じが拭えないIS。ISはシリアとイラクの広範囲にまたがる地域をサラフィー主義に基づいて支配し、その勢いは一時期、首都バグダッドまでせまった。著者はISを従来のテロ組織とまったく違うことを明らかにしていく。
著者は大胆にもISが”アラブにとってのイスラエル”を中東地域に設定しようとしていると仮定する。首謀者のアブ・バグダディはカリフを名乗り、現在の中東の国境線を規定した「サイクス=ピコ協定」を反故にする、理想国家を立ち上げようとしているのだ。武器による恐怖と、一般的な行政を並行する用いることによって、である。その方法は現代の西欧の倫理では決して許されないものだが、論理的ではあるのだ。ISは処刑などによって対外・体内的に恐怖を蔓延させる一方で、戦闘作戦の結果や、域内財政の決算書をSNSで明らかにする。組織の立ち上がり時には宗派間対立を煽ろうとするサウジアラビアなど各国に資金を頼ったが、現在は石油の密輸などにより、経済的に自立しているのである。
こうしたISに対し、欧米各国の対応は及び腰というより、戸惑っているようにみえる。中途半端な航空攻撃でお茶を濁すのが精一杯。根本的な解決方法を探せば、実はISの方に主導権があるように感じられること自体が、中東情勢の行く先をますます見えにくくしている。
ISの影響は間接的に、欧米に広がりつつある。フランスが空母一隻を域内に派遣しても、自国民の溜飲を下げる以外の何もできないことを素直に認めなければ、不安定な世界情勢は続いていくだろう。

初版2015/01 文藝春秋/ハードカバー

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書評<捏造の科学者 STAP細胞事件>

2014年、日本の科学史に残る大事件として記憶される事件が起こる。あらゆる細胞に分化するSTAP細胞の発見と、それが捏造であったことが明らかにされたのである。理化学研究所の若き女性マネージャー、小保方氏による捏造は当然のごとく世間の注目を浴び、共同研究者であったベテラン生命科学者の自殺者という、最悪の結末を招いた。本書は生命科学の取材歴も長く、多くの研究者とのコネクションも持つ毎日新聞の記者が、STAP細胞の取材をまとめ、捏造事件の全体像を明らかにする。

”割烹着姿のリケジョ”とか、一般マスコミが飛びつきそうなキーワードとともに存在が明らかにされたSTAP細胞と、それが捏造であると明らかになるまでの”ドラマ”。本書では毎日新聞である記者の、新聞紙面では掲載し切れない直接取材やメールでのやり取りが明らかにされ、事の次第を時系列で詳細に知ることができる。
また、著者は共同研究者で、自殺した笹井氏との親交が深いことから、「笹井氏を軸にしたSTAP細胞事件簿」として読むこともできるのも本書の特色だ。科学研究費の予算獲得を巡る競争を勝ち抜く管理者としての笹井氏、功を焦る研究者としての笹井氏という、STAP細胞事件の遠因が明らかにされる。
だが、本書では肝心の小保方氏の姿が薄い。大学時代から論文を登用し、研究室を渡り歩く異例づくしの経歴と登用など、周辺情報ばかりで(もちろん彼女を登用した大学や理研は避難されてしかるべしだが)、肝心の小保方氏のパーソナリティ、捏造へ向かう動機、情念が見えないのだ。小保方氏がマスコミから逃げ回り、取材拒否しているから当然かも知れないが。彼女が口を開き、語らなければ、本件は終了とはいえないと思う。マスコミの追い込みをのぞむ。何せ、本件は自殺者まで出しているのだから。

初版205/01 文藝春秋/ハードカバー

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書評<捏造の科学者 STAP細胞事件>

2014年、日本の科学史に残る大事件として記憶される事件が起こる。あらゆる細胞に分化するSTAP細胞の発見と、それが捏造であったことである。理化学研究所の若き女性マネージャー、小保方氏による捏造は当然のごとく世間の注目を浴び、共同研究者であったベテラン生命科学者の自殺者という、最悪の結末を招いた。本書は生命科学の取材歴も長く、多くの研究者とのコネクションも持つ毎日新聞の記者が、STAP細胞の取材をまとめ、捏造事件の全体像を明らかにする。

”割烹着姿のリケジョ”とか、一般マスコミが飛びつきそうなキーワードとともに存在が明らかにされたSTAP細胞と、それが捏造であると明らかになるまでの”ドラマ”。本書では毎日新聞である記者の、新聞紙面では掲載し切れない直接取材やメールでのやり取りが明らかにされ、事の次第を時系列で詳細に知ることができる。
また、著者は共同研究者で、自殺した笹井氏との親交が深いことから、「笹井氏を軸にしたSTAP細胞事件簿」として読むこともできるのも本書の特色だ。科学研究費の予算獲得を巡る競争を勝ち抜く管理者としての笹井氏、功を焦る研究者としての笹井氏という、STAP細胞事件の遠因が明らかにされる。
だが、本書では肝心の小保方氏の姿が薄い。大学時代から論文を登用し、研究室を渡り歩く異例づくしの経歴と登用など、周辺情報ばかりで(もちろん彼女を登用した大学や理研は避難されてしかるべしだが)、肝心の小保方氏のパーソナリティ、捏造へ向かう動機、情念が見えないのだ。小保方氏がマスコミから逃げ回り、取材拒否しているから当然かも知れないが。彼女が口を開き、語らなければ、本件は終了とはいえないと思う。マスコミの追い込みをのぞむ。何せ、本件は自殺者まで出しているのだから。

初版205/01 文藝春秋/ハードカバー

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書評<理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ>

進化の”進”のイメージ、あるいはevolutionという言葉の意味から、人は生物の進化を定方向の、競争によるものと考えがちだ。しかし、生命の歴史の実態は気候変動や小惑星衝突による大絶滅の連続であり、生物種にとって”運”が大きく作用する。著者はそれを”理不尽な進化”と呼び、研究者たちの論争を紹介しながら、ダーウィンの時代からどのように進化論が肉付けされ、今の時代まで生き残る理論になったかを論じていく。

個人的には、本書はポピュラー・サイエンスの中でも、特殊な部類であるという感想を持った。<理不尽な進化>というよりは<理不尽な進化論>という表題が相応しい。第1章では前述した大絶滅による「生物の進化は実のところ運が96%を占める」ことを説明するが、第2章以降は我々、進化論に関する素人が陥りやすい誤解を正し、第3章以降は進化論のメインテーマである「適応主義」に関して論争を繰り広げた、ドーキンスとグールドという、2人の進化論学者がそれぞれ唱えるネオダーウィニズムを解釈していく。その解釈も、科学によって2人の論争を説明するというよりも、2人が用いた”言葉”の持つ意味を探索していくのだ。いわば「進化論」を哲学的に論じ、進化論という学問がこの社会に存在する意義を説明しているように感じるのである。この感じ方は、素人ではあるがネオダーウィニズムの知識が多少なりともあるからかも知れないが。
これも個人的な感想だが、断続平衝説を唱え、”歴史”を重視するグールドの考え方に共感していたので、本書のおかげでグールドとドーキンスの論争に整理がついたことは収穫であった。グールドが陥った”思考方法の罠”をなんとなくだが理解できた気がする。ただ、これも科学的事実を論じるというよりは、「ものの考え方」を論じているので、科学というよりは哲学を感じるのである。
科学書と哲学書を行き来する、不思議な読後感を持つ本であった。

初版2014/10 朝日出版社/ソフトカバー

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書評<宇宙人相場>

オタクグッズを開発、販売する零細企業の社長、高野信念。病弱な女性と恋に落ちてしまった彼は、女性の父親にすすめられて在宅個人投資家の道を選ぶ。思ったより困難なデイトレーダーの現実。そこに謎のメール舞い込む。スパムメールだと思っていたそれは、彼に思わぬ運命をもたらすことになる。

端的にいえば、株価相場と金融商品のおとぎ話である。安月給のリーサラ兼ミリオタの自分にとっては個人投資家など未知の存在であるが、筆者の分かり易い説明と、主人公の奮闘のおかげで、理解できた気になる。主人公がそろそろ人生に惑う年代であるところも、個人的には刺さる物語であった。それにしてもこの著者はツンデレが好き過ぎる。

初版2014/11 早川書房/ハヤカワ文庫JA

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書評<奇妙なアメリカ: 神と正義のミュージアム>

日本では博物館はさほど身近な存在ではないが、アメリカには様々なテーマを取り上げたミュージアムが各地に点在し、国民にとって非常に身近な場所である。科学、美術、歴史など様々なテーマを取り上げたそれらミュージアムには、現在のアメリカが如実に現れている。本書は8つの代表的なミュージアムを実際に見学し、アメリカの市民の多用な価値観を分析していく。

日本では、国や自治体ではなく、個人や団体が大規模なミュージアムを常設しているのは比較的珍しいが、アメリカはそういったミュージアムが数多く存在する。個人が運営するものであるから、そこには施設運用者の訴えをダイレクトに受け取ることができる。例えば進化論を否定する”インテリジェント・デザイン”を取り上げたミュージアムなどは科学の主流では決してないものだが、そこに多くの人が訪れるということは、進化論を否定する市民が数多く存在するということである。
このように、ミュージアムにはアメリカの”矛盾”が反映されている。核兵器に対するアンビバレンツな感情、ビリオネアへの妬みや嫉み。著者は”先進国アメリカ”が抱える問題を、8つのミュージアムを探訪して見事に指し示すことに成功している。

初版2014/06 新潮社/新潮選書

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書評<機龍警察 火宅>

凶悪化する組織犯罪、それも部内で”キモノ”と称される特殊装備に対抗するために警視庁内に設置された特捜部の活躍を描く「機龍警察」シリーズ最新作。本書は長編ではなく、様々な媒体に掲載された短編を集めたものである。

いわゆる短編集ではあるが、著者のウデが存分に発揮された「機龍警察ワールド」が展開している。龍騎兵そのものが展開するアクションシーンはほとんどないが、警察内部の暗闘や、特殊装備の発達でますます悲惨になっていくアフリカの少年兵の実態、戦争に関わる最新テクノロジー拡散など、物語につながる様々な事象が展開される。ますます、今後のシリーズが楽しみになってきた。

初版2014/12 早川書房/ハードカバー

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呉艦船めぐりに乗船してきた

みなさま、明けましておめでとうございます。運用10年を超えた本ブログ、今後もしばらくはゆるゆると続けていきますので、ときどき巡回してやってください。それでは本年最初の記事、いきます。


実家が江田島のワタクシ、今回は実家の帰省時の1月2日に呉艦船めぐりに行ってきました。
呉港は海上自衛隊の主要基地の一つで、戦艦<大和>建造の地であります。近年はミュージアム建設などで、その環境を観光に積極的に活用。このクルーズもその一環ですね。
乗船30分前からチケット販売開始。10:00の便に搭乗。チャーター船には室内席とデッキがあるのですが、当日は風も強く、デッキに上ったのはオレと親父のみ。なお、この艦船めぐりは、海自のOBが常時艦船について説明してくれます。
ランダムに写真うpしていきます。
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残念ながら今は呉基地所属の最大の護衛艦<いせ>は修繕のためドック入り。この輸送艦<おおすみ>が最大の艦船になりますかね。
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たぶん、呉艦船めぐりの一番の魅力は潜水艦のごく近くまでチャーター船が近づいてくれること。なので、普段は見れない潜水艦のディテールを垣間見ることができます。エンジン回してバッテリー充電してたり、潜望鏡メンテしてたり。<そうりゅう>級の吸音タイルのディテールや汚れ方など、モデラーなら垂涎モノです。
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呉港は日立パブコックなど造船所の名所でもありますので、艤装中や建造中のタンカーを見ることができるのもいいですね。
マニアはもちろん楽しめますが、気まぐれから同行した一般ピープルの親父殿も楽しんでいたので、フネ好きなら楽しめること間違いなしかと。
このブログを読んで、行ってみようかと思った方へのアドバイス。デッキ席(要はフネの屋根)は椅子もなく吹きさらしなので、防寒あるいは日焼け対策は充分に。この日の自分のカメラのレンズは15‐70mmでしたが、お好きな方は300mmくらいの望遠持っててもいいかと。充分に艦船に近づいてくれるので、全体を捉えるには広角が必須ですが、アップで取りたいディテールもあるし、ドッグの奥の修繕中のフネなんかを捉えたかったりもするはずです。
それともう1つ、インターネット予約もやってますが、イマイチ信用できない感じなので(笑)、心配性の方はTELにて確認を。
海自の<てつのくじら館>・大和ミュージアム・艦船めぐりが出航する呉港はいずれも徒歩5分圏内なので、遠くの方もぜひどうぞ。楽しめますよ~。

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